2009 Fiscal Year Annual Research Report
近代民間公益活動の経営形態・理念及び組織間関係の動態的研究-報徳社の発展を中心に
Project/Area Number |
19730348
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
川野 祐二 Shimonoseki City University, 経済学部, 准教授 (30411747)
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Keywords | 創発戦略 / 戦略プロセス / ネットワーク / 非営利組織 / 報徳結社 / 公益団体 |
Research Abstract |
近代日本において急激にその数を増やした報徳結社は、非営利組織ネットワークのモデルケースといえる。報徳結社群はいかにして全国に展開するに至ったのか。その経緯を動態的に分析しつつ、報徳社の拡大戦略を論考した。報徳運動草創期のリーダーたちはいずれも拡大に向けての明確な戦略ビジョンを持ってはいなかった。福住正兄の『富国捷径』などは結社群の拡大を視野に入れてはいるが、それでも拡大戦略の青写真というべきビジョンを持っていたとは言えない。彼らの行動は、意図せざる拡大戦略と言うべきものである。草創期の報徳運動は、幕末から明治初期という激しい環境変化の中にあり、あまりにも世界の動きは複雑である。そのため拡大のための明確なビジョンやプランを描きにくかった。具体的には、各地で次々誕生する報徳結社があり、一方でその本社機能をもった組織も次々現れた。また、主にエリート層の者が集まった中央報徳会が結成され、書籍の出版、各地で講演会がなされた。地方や中央でそれぞれ独自に報徳運動は展開されて、次第に結社群は拡大されていったのである。報徳結社群の拡大戦略は、報徳ネットワークが環境に適応しようとする学習過程の中で、徐々にその姿を現したのであり、学習プロセスの中で拡大戦略を獲得していったと見るべきだろう。また、報徳結社は理念経営であるから、当然ビジョナリーカンパニーでもある。ビジョン経営にとって、アントレプレナーの役割は重大である。偉大なリーダーのビジョンが戦略として浸潤していくからである。しかし報徳運動の場合、明治期以降のリーダーが一人でないことを思えば、一人の頭の中に描かれた拡大戦略が、そのまま報徳ネットワークに適応されたとは考えにくい。つまり報徳運動全体の拡大戦略は、複数のリーダーたちの相互関係によって徐々に形成された創発型の戦略であり、学習プロセスの結果なのである。
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