2008 Fiscal Year Annual Research Report
集団間の信頼・協力関係形成に関する社会心理学的研究
Project/Area Number |
19730382
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
熊谷 智博 Tohoku University, 大学院・文学研究科, 助教 (20400202)
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Keywords | 集団間関係 / 道徳的ジレンマ / 国際的不公正感 / ナショナリズム |
Research Abstract |
本年度は集団間協力や信頼を達成する際にそれを阻害する要因として非合理的判断の心理過程についての研究を昨年度に引き続き行った。合理的に考えれば他集団と協力関係を築いた方が良いことは分かっているのに、人々はそのような決定が下せないことがある。それは内集団を大事にしなくてはいけないという道徳が、合理的な判断を阻害するからである。そこでそのような非合理的な判断の心理について、道徳的ジレンマ状況とそれを克服する心理的要因としての「権力」に注目し、オランダ・Utrecht大学のKees van den Bos教授と共同で心理学実験による検討を始めた。その結果、権力意識を強めると、人々は非合理的な判断を抑制し、合理的な判断を行いやすくなること、またこれは意識的にそのような状態になったときだけではなく、本人が自覚していなくても、合理的判断が促進されることが明らかになった。今後は、このような合理的判断から集団間の協力関係を促進するため心理過程について検討をする。また本年度は集団内での社会的公正が他集団に対する態度や行動に影響する心理過程について、実験室での成果だけではなく、社会調査による検討も行った。これは本研究費でこれまで行われてきた研究の生態学的妥当性を検討し、その応用範囲を明らかにするためである。調査の結果はこれまでの研究を支持するもので、日本社会を公正だと考えている人は日本人であるという意識を強め、日本人への同一化を強めていた。そしてその強められた同一化はナショナリズムと愛国心を強めていたが、ナショナリズムが日本の国際的な不公正感を強める一方で、愛国心にはそのような否定的な効果は見られなかった。このことから集団や国家に対する同一化がすなわち集団間の葛藤を強めるというわけではなく、場合によっては集団間の協力や信頼関係形成の糸口になりうることも明らかになった。
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Research Products
(5 results)