Research Abstract |
他の認知能力の発達研究のみならす,他の記憶発達研究(短期/長期記憶,ワーキングメモリ,日常的な記憶)との関連も視野に入れて,記憶全般の発達過程における自伝的記憶の発達過程について,この数年かけて本研究が蓄積してきた縦断的調査研究のデータの分析結果を中心に,過去の国内外の自伝的記憶に関する知見に照らしあわせながら,比較検討しその道筋に関する解釈と新たな仮説の可能性を検討してきた。概観と現段階の考察・仮説の一部については,平成21年度に論文により発表を行った。従来の研究では,あまり検討されてはこなかった,自伝的記憶の長期にわたる変遷過程や語りの影響に関する分析に平成21年度は焦点をあててきたが,その中間報告を国内の学会で発表した。発表したデータからは,変遷過程や語りの影響において,複数の個人間で共通してみられる,記憶内容の変化のパターンがいくつかある可能性が示されるとともに,内容面の詳細では個人差が大きく出やすい可能性が示唆された。データ収集・分析が,まだ成人期にまでは達していないため,現段階では十分とはいえないが,今後,自伝的記憶の生涯発達の過程を明らかにする上で,十分布石となりうる成果を得つつあるといえる。今後の課題として,それぞれの自伝的記憶が,各対象者の中で,どうとらえられ,その語り口がどう変わっていくのか(あるいは変わっていかないのか),またどういった記憶が後々まで残っていきやすいのか,個人差も含めた,内容面での詳細な分析が必要であると思われる。
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