2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19730487
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
岡部 美香 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (80294776)
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Keywords | 新教育 / 文化史 / 比較教育史 / 領有 / エレン・ケイ / 児童の世紀 / 解釈学 |
Research Abstract |
本研究は、20世紀初頭に生起・展開した新教育の思想を対象として、当時のさまざまな社会集団によるその領有の仕方について考察し、これを通して、思想の読者(集団)が構成する社会構造や緊張関係、そして新教育の思想の社会的な布置を解明することを目的としている。 最終年度である本年度の成果としては、まず、日本・ドイツ・スウェーデンにおけるE.ケイの教育思想の領有に関する比較教育文化史的考察を通して、新教育の思想は概して3つの文脈において、具体的には(1)(時代を問わず)現行の教育を批判・改善する手がかりとして、(2)20世紀の教育文化を批判する手がかりとして、(3)近代ないしは近代教育の思考的枠組みを批判する手がかりとして読まれる傾向にあることが明らかになった。また、教育実践者は(1)か(2)の文脈で、教育学研究者は(3)か(2)の文脈で読むことが多いといえる。今日では、(1)~(3)の読みが同時並行的に実践されているが、(1)と(2)、(2)と(3)の組み合わせに比して、(1)と(3)との間では内容的にも読者(集団)どうしとしても対話的な交流があまり見られない。ここから、(1)と(3)とのズレにいかに対応するかが今後の教育思想史研究の課題であることか導出された。 次に、比較教育文化史的アプローチが3つの柱、すなわち(1)テキスト批判的分析、(2)社会史的・量的分析、(3)読者による読解の分析から構成されることを明らかにし、この方法論を適用して本研究を遂行し、上述の成果を得た。この方法論の有効性について一定の検証ができたことも成果の一つである。本研究では「読解」・「翻訳」が教育思想の伝播や継承に与える影響については考察できたが、そうした「読解」・「翻訳」をそもそも可能にしている諸条件(メディアや制度)については十分に考察することができなかった。この条件についての考察を今後の課題とし、J.=L.ナンシー、W.ベンヤミン、P.ルジャンドルらの思想を手がかりに研究を進めていく計画である。
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Research Products
(4 results)