2008 Fiscal Year Annual Research Report
戦前東京市における社会教育事業の発展と特質に関する実証的研究
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19730495
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Research Institution | Hirosaki Gakuin University |
Principal Investigator |
関 直規 Hirosaki Gakuin University, 文学部, 講師 (50405106)
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Keywords | 大迫元繁 / 池園哲太郎 / 稲葉幹一 / 中小商工業 / 職業指導の論理 / 市民の求知心 / 青年の職業的自立 / 成人の職業経験 |
Research Abstract |
今年度は、史料の調査・収集を継続しつつ、戦前東京市における三つの社会教育事業の発展の基盤となった理論的・社会的構造を総合的に考察した。その結果、次の点が明らかになった。 1、東京市の社会教育は、1921年の新設から1942年に教化課に改称されるまでの間、事業の開発・実施に大きな役割を果たした。歴代社会教育課長・係長の中のキーパーソンは、大迫元繁、池園哲太郎、稲葉幹一である。中間的・専門的指導者と言える三者の論稿の検討から、東京市の社会教育の論理は、人格主義社会の構築を志向し、世界の大都市成人教育との共時性を帯びつつ、市民生活に着した現場に根差す視点を持っていたことがわかった。 2、現場の実態を解明した。まず、「商工青年修養会」は、中小商工業の従業員のための公休日を利用した事業あり、欧米の教会礼拝をモデルとし、日常生活を深化させる修養を重視した。次に、東京自治会館を会場に、大学教員の協力を得て、連続的な教養教育を提供した「市民講座」は、大学拡張型成人教育の性格を持っていた。そして、英国の「輔導学級」を導入した「労務者導学級」は、フォーマルな教育に不慣れな従来の非参加層を対象に、市内のボランタリー団体との協働によって、多様な活動を実現した。 3、在籍者の属性を考察した。「商工青年修養会」の受講者は、住み込みの若年労働者が中心で、小学校卒業者が約8割を占めており、職業的自立の機会を求めていた。「市民講座」には、中等教育程度の学力水準を持つ、官公衙、銀行等に勤務する、求知心ある男女市民が主として参加した。「労務者輔導学級」は、機械器具製造業等の労働者で、管理・監督を担う職長を含み、幅広い年齢層に及んだ。各自が蓄積した職業経験を活かし、直面する工場問題解決の導筋を学習していた。こうした市民層の生活世界との接点を保つことで、三つの事業が発展したことがわかった。
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