2010 Fiscal Year Annual Research Report
幼稚園における慢性疾患患児の支援ニードの明確化と支援モデルの構築に関する研究
Project/Area Number |
19730561
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
片山 美香 岡山大学, 大学院・教育学研究科, 准教授 (00320052)
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Keywords | 幼稚園 / 幼稚園教論 / 慢性疾患 / 幼児 |
Research Abstract |
【目的】 公立幼稚園の担任教諭が担当しているクラスの慢性疾患を有する子どもの理解や現状、保護者とのかかわりをどのように認識しているかについて質問紙調査を行い、慢性疾患患児をめぐる保育の現況と今後の課題について明らかにすることを目的とした。 【方法】 岡山市内の公立幼稚園に5部ずつ質問用紙を送付した。設問は、担任クラスの年齢や慢性疾患を有する子どもの人数と疾患の内訳、さらに、その内の1事例について、担任としての疾患理解の程度や医療機関との連携に関すること、保育上の現状と課題、保護者との連携上の現状と課題等とした。 なお、倫理上の配慮として、回答は本研究の目的以外に使用しないこと、データの管理を厳重に行うこと、回答を拒否されても不利益を被らないことなどを明記した。 【結果】 回答をいただいた165人全員のデータを分析対象とした。 担当している慢性疾患を有する子どもの疾患の内訳は、喘息(19.4%)と食物アレルギー(19.4%)が最も多く、次いでアトピー性皮膚炎(15.2%)が多く、てんかん(6.7%)も少数見られた。 担当児の疾患理解については、「やや理解できている」という回答が最も多く77.2%であり、「とても理解できている」という回答は4.4%と少なかった。医療機関との連携があると回答したのは1件のみであった。保育上の不安については、「あまり不安がない」との回答(59,6%)が最も多く、「やや不安」との回答は25.7%で、「とても不安」が3.7%と、不安を有する者は約3割であることが明らかになった。 慢性疾患を有することが子どもの心理社会的発達に影響があるかどうかについては、約半数が「あまり影響ない」と回答したものの、約半数が影響があると認識していることが示された。その理由として、活動や食事に制限があることから他児との違いが受け入れられないことや、体調が優れないために欠席が多くなり、遊びに入りにくかったり、友だちとの関係を築きにくかったりすること、したいことを思う存分できないこと、かゆみ等で集中力が途切れることなどが挙げられていた。また、14.6%の教師が保育上の困難さを感じていた。その理由として、担任が一人であるために十分な個別配慮や対応ができにくいことや、他児と異なった活動内容となる場合の説明の仕方、保護者から聞いている緊急時の対応のあり方だけで問題ないのかなどを挙げていた。保育上の今後の課題があると回答したのは28.9%で、具体的には医療的な専門知識をもつ養護教論の配置や、保護者との密な連携、教師自身が疾患に関する研修を積むことなどが見られた。 保護者から園生活における要望があると回答したのは48.5%で、内容としては食べ物に関することが最も多く、その他、体調の変化への対応および保護者への連絡が求められることなどであった。保護者がわが子の園生活に不安を持っていると回答したのは27.2%で、他児がわが子のことをどのように捉えているかを気にすることが示された。また、32.1%が子どもと保護者とのかかわりに気になることを抱えていた。保護者が過干渉や過保護になること、逆に親が厳しく接することなど、極端な子どもへのかかわりが挙げられた。65.7%が保護者から子育てに関する相談を受けており、最も多いのが友だちとのかかわりに関することであった。16.0%が保護者との連携に困難を感じており、幼稚園での様子や課題などの伝え方、保護者と園側との認識のズレなどが連携を難しくしている要因であることが示された。そのため、保護者との連携上の課題として、十分に話し合う時間を確保することや、ありのままの子どもの姿を伝えつつ、確かな育ちもしっかりと示していくことの重要性、発達についての見通しを保育の専門性としてしっかり持ち、小学校につないでいくことなどが挙げられた。 【考察】 今回は幼稚園教諭を対象とした結果であったが、2009年度に当助成を受けて保育所保育士を対象とした同様の調査結果と比較すると共通点や相違点が見いだされた。まず、受け入れている慢性疾患の種類と割合はほぼ同じであった。しかしながら、保育所は子どもの一日の大半を過ごす場所であることから、長時間にわたる生活のなかで給食や服薬、午睡などにおいてさまざまな養護上の配慮が求められている一方、幼稚園は教育の場としての認識が保護者にも教師にも強いようで、友だちとの関係構築や個々の発達の見通しを明確にもち、保護者とともにその子どもの特性をより良く伸ばしていくための連携を意識して取り組んでいることが示唆された。また、今後、保育所および幼稚園のいずれにおいても、さまざまな支援を要する子どもに適切に対応するため、医療的知識をもつ職員の配置が喫緊の課題であることが明らかになった。
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