2009 Fiscal Year Annual Research Report
低次元電子系における量子輸送現象、完全計数統計と量子絡み合いの理論的研究
Project/Area Number |
19740189
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井村 健一郎 Tohoku University, 大学院・理学研究科, 助教 (90391870)
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Keywords | メゾスコピック系 / グラフェン / 局在 / スピントロニクス |
Research Abstract |
Z_2トポロジカル絶縁体-この新しいタイプのバンド絶縁体の具体的な実装として最初に考えられたのは、グラフェン系、特にグラフェン・ナノリボンである(Kane-Mele模型)。グラフェン系はそれ自体、大変興味深い研究対象であり、実際、実験・理論の両側面から爆発的に研究が行われている。我々もグランフェン系の物理の延長として、Z_2トポロジカル絶縁体の研究を行った。現在までに得られた主な成果は、1)弱局在の相図-バルクの性質、2)接合の問題-「クライン・トンネル」に関してである。 1)我々は、ドープしたKane-Mele模型が不純物散乱の存在下で特徴的な弱局在の相図を呈すこと見出した。とりわけ、局在のクラスは、活性化された有効スピンの数N_sを数えることでわかることを指摘した。Kane-Mele模型には、副格子、バレー、実スピンの3つがあるので、N_s=1,2,3(副格子スピンは常に活性)。質量項がない場合、N_sが偶数なら系は弱局在(WL)、奇数なら反局在(AL)である。質量項が実効的な時間反転対称性を破ると、系はユニタリー(弱局在補正なし)にたる。我々の提唱するこの新しいアプローチは、弱局在理論の枠組みに現代的な視点を与えるものと言える。 2)相対論的な量子力学において、ポテンシャル障壁が静止質量を超えて大きいと、逆に古典的には不可能な領域に粒子がトンネルしていく(クライン・パラドックス)。グラフェン系では、これが普通に起こり、しかも、界面に粒子が垂直入射した場合、障壁の高さに依らず完全透過が起こる。背後にある事情は、先の弱局在の場合と同様、副格子の自由度が実効的にスピンの役割をしているため、いわゆる「後方散乱の消失」が起こる。Z_2絶縁体の場合、ラシュバ相互作用により実スピンを活性化してやると、これが完全反射に変わる。一方、トポロジカル質量項とラシュバ相互作用がうまくバランスした場合には、再び完全透過が可能になる。
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