2009 Fiscal Year Annual Research Report
硬X線光電子分光を用いた強相関酸化物界面の直接電子状態観察
Project/Area Number |
19740199
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堀場 弘司 The University of Tokyo, 大学院・工学系研究科, 助教 (10415292)
|
Keywords | 強相関系 / 界面 |
Research Abstract |
La_<1-x>Sr_xMnO_3(LSMO)薄膜においては、基板からのエピタキシャル応力により薄膜に物理的圧力を加えることで、その物性を変化させるというユニークな制御法が報告されている。バルク物質、および格子定数の近い(LaAlO_3)_<0.3>-(SrAl_<0.5>Ta_<0.5>O_3)_<0.7>(LSAT)基板上に作製したLSMOx=0.5薄膜は、強磁性金属状態を示すのに対し、引っ張り応力を与えるSrTiO_3(STO)基板上では、A型反強磁性金属状態、また圧縮応力を与えるLaAlO_3(LAO)基板上に作製した薄膜は、C型反強磁性絶縁体状態となる。一方、LSMOx=0.4薄膜においては、STO基板上で引っ張り応力を受けた状態でも、基板応力の生じないLSAT基板上に作製した薄膜と同様の、強磁性金属状態を保持している。本研究では、この基板応力と物性がそれぞれ電子状態とどのような相関があるのかを解明するために、エピタキシャル歪みにより物性を制御したLSMO薄膜の電子状態を直接観察して比較することを目的として、硬X線光電子分光測定を行った。Mn 2p内殻の硬X線光電子スペクトルは、メインピークの低結合エネルギー側、639eV付近に肩構造が存在し、これは伝導電子からのスクリーニングによる準位であり、その強度とLSMOの強磁性金属的な物性と密接に関連していることが知られている。LSMOx=0.5においては、強磁性金属状態のLSMOx=0.5/LSATと比較して、A型反強磁性状態のLSMOx=0.5/STOではこの肩構造が強く抑制されており、C型反強磁性絶縁体状態のLSMOx=0.5/LAOでは、ほとんど消失していた。一方で、LSMOx=0.4については、C型反強磁性絶縁体状態のLSMOx=0.4/LAOでは、LSMOx=0.5/LAOと同様に肩構造が消失している様子が観測されたが、ともに強磁性金属状態のLSMOx=0.4/LSATとLSMOx=0.4/STOは、そのスペクトル形状がほとんど変化していないことがわかった。これはすなわち、格子歪みのみを受けて、物性が変化していない状態では、電子状態もほとんど変化しておらず、格子歪みにより物性が強磁性体から反強磁性体へと変化する段階で、初めて電子状態にもその変化が現れるということを示している。
|