2009 Fiscal Year Annual Research Report
分子性導体における質量ゼロのディラック粒子に対する電子相関効果の理論
Project/Area Number |
19740205
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小林 晃人 名古屋大学, 高等研究院, 特任講師 (80335009)
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Keywords | 分子性導体 / ディラック粒子 / 電子相関 |
Research Abstract |
分子性導体α-(BEDT-TTF)2I3はフェルミエネルギー近傍において大きく傾斜したディラック・コーンを持ち、圧力下ではコーンの交点にフェルミエネルギーが一致しゼロギャップ状態となっている。この状態での輸送現象(電気抵抗、ホール効果)は大変興味深いものであり、通常の金属や絶縁体と全く異なっている。また磁場中で観測される絶縁体相や電気抵抗・ホール抵抗におけるプラトーの出現するメカニズムは未だ解明されていない。本研究では磁場中のディラック・コーンにおいて電子相関を取り入れることで磁場中の特異な物性を解明することを目指した。昨年度までに低温かつ強磁場中での長距離クーロン相互作用を取り扱うことを目的とした有効ハミルトニアンを提案した。その特徴はN=0ランダウ状態において単位胞に磁束量子1つを含む仮想的なワニエ関数を基底とする2次元格子模型であり、通常のスピンとValley擬スピンに関する拡張されたスピン模型にマップできることである。さらにディラックコーンの傾斜によりN=0ランダウ状態におけるValley間散乱項が現れることを世界で初めて見出し、これにより擬スピンXY強磁性とKT転移が起きる可能性を指摘した。本年度では傾斜したディラックコーンにおける動的誘電関数や光学伝導率などの動的応答関数を解析的に計算した。その結果、傾斜したディラックコーンでは傾斜のない場合には存在しないカスプ構造が動的応答関数に現れることを見出した。このように本研究ではディラックコーンの傾斜がホール効果、電子相関効果、動的応答などにおいて非自明な特性を生み出すことを明らかにしてきた。この結果は分子性導体以外で傾斜したディラックコーンが発見された場合にも応用が可能であり、広い意味でのディラック電子の固体物理の新しい側面の開拓に寄与するものと思われる。
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