Research Abstract |
宇宙空間に大量に存在する水素分子が生成されたとき, その水素分子の内部エネルギー状態(振動・回転励起)がどのようになっているかを明らかにするため, 水素原子の結合反応により生成される水素分子の内部エネルギーおよび並進運動エネルギー測定装置の開発および測定実験を行うことを目的とした研究計画を遂行した 水素分子は星間塵と呼ばれるアモルファス氷で覆われたサブミクロンサイズの鉱物微粒子表面で, 2個の水素原子が結合することにより生成される. このとき, 約52000Kもの反応熱が放出されるがこのエネルギーの一部が, 生成水素分子の回転, 振動励起を引き起こし, 残りのエネルギーが並進運動エネルギーと星間塵表面へ分配される. この大量の水素分子生成時に放出される膨大なエネルギーの影響について, これまでの天文学や星間化学の分野ではほとんど考慮されていない. これらのエネルギー分配過程を明らかにすることで, 天文観測でみられる水素分子のオルソ/パラ比, 水素分子揮線の起源や, 星間塵表面に吸着した分子の蒸発過程に関して, 励起水素分子の影響を初めて考慮することができ, あらたな議論を展開する可能性を持つ重要な課題である. 本研究を行うためには, 原子ビームチョッパーシステム, 飛行時間型質量分析器を既存の実験システムに新たに導入し, 測定システムの構築が必要とされた. 平成19年度に原子ビームチョッパーおよび飛行時間型質量分析器の設計・製作は予定どおり終了し, 本年度は既存システムへの導入および測定システムの構築を行った. 本実験は, 原子ビーム, 分子蒸発用レーザー, 励起水素分子測定用レーザーを用いて行うため, すべての装置をデジタル遅延回路を用いて単一TTLパルスで高精度に連動させるシステムを構築した. 水素原子を低温アモルファス氷表面に照射し, 表面で生成された水素分子が振動状態v=3までの振動励起水素分子の存在分布測定に成功した.
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