Research Abstract |
価数が0価から5価まで多様に変化するヒ素の地球環境内での挙動特性を解明する目的で,研究初年度は硫化ヒ素に着目し実験を行った.As_4S_4分子性結晶である鶏冠石は,光化学反応によってAs-S結合を切断しパラ鶏冠石に相転移する.本研究では,As-S結合の挙動を明らかにするために,Sの一部をSeに置換したAs_4(S,Se)_4分子性結晶を合成し単結晶構造解析によって結合状態を調べた.実験の結果,As_4(S,Se)_4はAs_4S_4かご状分子と同構造をとり,全組成範囲内で同構造を維持した.As_4S_4-As_4Se_4連続固溶体の単位格子パラメーターは,Seの固溶量の増加に伴ってベガード則に従って変化し,As-(S,Se)結合距離,As_4(S,Se)_4分子体積,As_4(S,Se)_4分子間距離は直線的に増加した.それに対し,As_4(S,Se)_4分子内のAs-As結合距離は一定の割合で減少した.As_4S_4分子の光相転移ではAs_4S_4分子の4つのS原子のうちS2原子がその結合を切って別のAs_4S_4分子に相転移することが知られている.SとSeの原子席占有率の精密化の結果,Seはこの4つの原子席のうち光相転移で結合を切り離しやすい原子席に優先的に占有されていた.さらに,光相転移の過程ではS3原子が最も原子シフトが大きく光相転移中に結合を切らない原子であることが知られているが,この原子席にはSeは非常に固溶されにくいことが分かった.このようにAs_4S_4分子光相転移特性とS-Se陰イオン交換特性は非常に良く一致しており,As_4S_4分子性結晶の分子特性の普遍性を示唆した.さらに,SeのAs_4(S,Se)_4分子内への選択的な配位によって,As-(S,Se)2結合距離とAs-(S,Se)3結合距離の差が非常に大きく広がるため,As_4S_4-As_4Se_4固溶体内ではAs_4(S,Se)_4分子の歪みは著しく増加していた.
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