2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19750013
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
安池 智一 Institute for Molecular Science, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (10419856)
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Keywords | 電子状態理論 / 量子開放系 / 共鳴状態 / 表面光科学 |
Research Abstract |
I. 第一原理開放系量子化学計算プログラムの開発 実空間グリッド表示の密度汎関数法に基づく第一原理電子状態計算プログラムに吸収ポテンシャルを導入し,実効的に外向波境界条件下での第一原理電子状態計算を可能にするプログラムの開発を行った.本研究で開発したプログラムでは,基底状態に加え,線形応答理論の援用により励起状態の計算も可能となっている.本プログラムにより,従来の孤立系理論に基づく量子化学計算プログラムではモデル化が困難であった「金属表面に吸着した原子分子」の局所電子状態の第一原理計算が可能となった.特に,励起状態の計算も可能となったことで,電気化学・触媒化学や近年実験研究の発展が著しい光表面科学・STM科学・単一分子デバイス科学の第一原理理論に基づく詳細な研究が可能となった. II. 開発したプログラムを用いた新手法の有効性の実証 これまでに多くの実験的,理論的研究のあるCs/Cu(111)系について,開発したプログラムによる電子状態計算を行った.その結果,最小のモデルクラスターCsCu分子の計算によっても平衡吸着距離は良好に再現され,光吸収スペクドルの定性的な理解が可能であることが明らかとなった.特に,一部の実験家がその重要性を指摘してきたCuバルクからCs5d軌道へ励起の重要性を初めて理論的に検証する事ができた.また,計算された励起状態のポテンシャルカーブと電子状態寿命によって,これまで蓄積されてきた多くの実験事実の微視的かつ統一的な理解が可能となった.京都大学松本教授らはこの系におけるCsの光誘起コヒーレント振動に於いて通常と異なる振動初期位相を観測したが,これは新手法で見いだされた「短寿命励起状態による撃力励起メカニズム」によって再現できることが分かった. 以上のように,本研究で企図した量子開放系電子状態計算プログラムの開発およびその有用性の実証に成功した.
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