2008 Fiscal Year Annual Research Report
複雑系の遅いダイナミクスの解明を目指した単一分子振動分光法の開発
Project/Area Number |
19750019
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
石井 邦彦 The Institute of Physical and Chemical Research, 田原分子分光研究室, 研究員 (80391853)
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Keywords | 単一分子分光 / 蛍光相関分光 |
Research Abstract |
本年度は、前年度に製作した蛍光寿命測定を組み合わせた蛍光相関分光システムの応用を行った。本システムは、顕微鏡の対物レンズの焦点領域の分子から放出される光子の絶対到着時刻と、励起パルスからの各光子の相対遅延時間を、一つ一つの光子を区別して同時に記録することができる。これらのデータはそれぞれ蛍光強度の揺らぎと瞬間的な蛍光寿命の情報を与える。この情報を用いて、蛍光の強度揺らぎを蛍光寿命と相関させて測定することを試みた(蛍光寿命相関分光)。まず不均一系のモデルとして、2種類の異なる蛍光寿命をもつ蛍光色素(ローダミン6G、ローダミンB)の混合溶液の蛍光強度相関関数および蛍光寿命相関関数を同時に測定したところ、これらの2つの相関関数の間に有意な差がみられた。一方これら2種類の蛍光色素のうち片方だけを含む溶液では、2つの相関関数は誤差の範囲で一致した。このことは、本手法により系に内在する不均一性を検出できることを明確に示している。次に本手法を応用して、クマリン系色素で蛍光ラベルしたポリペプチド分子を測定したところ、界面活性剤を加えることで2つの相関関数の比が変化する様子が観測された。この結果はポリペプチド分子のコンフォメーションの不均一性の違いを反映したものと理解でき、複雑な生体分子の構造の多様性の問題へ本手法を応用できることを示唆する。また、不均一性は相関時間の関数として求められるため、これを応用することで生体分子の構造の多様性が揺らぎにより均一化してゆく時間スケールの情報を得ることができると期待される。
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