Research Abstract |
これまで,報告者は新化合物Lu_2Cr^IIS_4を発見し,全く新しいタイプの結晶構造をとることを見出した。また,この化合物が機能性硫化物を導くと考えられる,(1)M-S-M(M:金属)角がほぼ180°であり,(2)固溶領域の広い,という2つの条件を満たしていることも明らかにした。Cr(II)イオンは,ヤーン・テラーイオンであるので,e_g軌道の不対電子が,磁性に大きな影響を与えるものと予想され,さらには局所構造的不安定性を導き,相転移などの独自の性質を持つことも期待される。そこで,Lu_2Cr^IIS_4とこれらの関連物質群(固溶体)の精密合成,結晶構造解析,物性評価を行い,機能性物質としての可能性を探り,この系の本質を明らかにすることが本研究の目的である。 2007年度は,合成法の確立と詳細結晶構造解析,そして,固溶体について調べた。合成法については,反応条件を検討することにより,ほぼ確立することに成功した。結晶構造解析については,大凡の結晶構造しか分かっていないために詳細な解析が必要となる。これまでの解析では,正方晶でα_0=5.271Å,c_0=11.299Åとしていたが,小さいピークに指数が付いていなかった。今回,α=√<2>α_0,c=2c_0と単位格子を大きくすることで,ほぼ全ての反射に指数を付けることが出来た。直接法の構造解析プログラムExpo2004による解析で,詳細な原子座標も明らかになってきている。固溶体Lu_<2(4-x)/3>Cr_xS_4の構造についても調査中であるが,新しい固溶体としてMn^IISとの固溶体の検討を行ったところ,ある程度の固溶割合で合成できることが分かった。Mn^IIの置換・固溶によって,ヤーン・テラー歪みが大きく緩和され,磁気的な性質も変化することも見出した。
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