Research Abstract |
本年度の研究では,1)アルキニルsila-Cope転位反応の反応機構解明をおこなうこと,2)アルキニルsila-Claisen転位反応を新規に開発することを目的として研究を実施した。 目的1)についての成果:ケイ素上の求核剤の検討を行ったところ,アリル基のみが反応性を示すことがわかった。また,新規アレニルsila-Cope転位反応への展開では,アルコールのアレンへの付加反応が進行してしまうことから,その展開が極めて困難であった。即ち,金触媒では,アルキンほどアレンを活性化できないことが分かった。 目的2)についての成果:一価のカチオン性金錯体存在下,求核剤としてアルコールを用いて,環状ケトンから合成されたアルキニルシリルエノールエーテルを反応させたところ,sila-Claisen転位反応が速やかに進行した。得られた生成物の立体選択性は非常に高く,(Z)体のみを与えたことは,本反応が分子内転位反応を経由して進行していることを強く示唆する結果といえる。本反応は,金錯体に特有の反応であり,その他のルイス酸触媒を用いた場合では,生成物を全く与えなかった。また,アルコール求核剤のみが適していることは,アルコールがケイ素の高配位状態を比較的安定な形で発生させ,効率良くアリルケイ素骨格を活性化できた結果といえる。さらに,本反応は基質の安定性に大きく依存することもわかった。例えば,非環状ケトンのアルキニルシリルエノールエーテルでは,基質の分解が非常に早く生成物はほとんど得られてこなかった。そこで,反応系中で効率良くシリルエノールエーテルを発生させる方法を新たに開発し,その解決を図ったところ,一部の基質で反応が効率良く進行する知見を得た。今後は,基質一般性を含めて反応機構の詳細について検討していく予定である。このようにケイ素を機軸とした分子内転位反応の開発は,通常では合成困難な有用な化合物を一挙に合成することができる点で有機合成化学の進歩に大きく貢献する重要な研究である。
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