Research Abstract |
遷移金属錯体を構造中に含有したイオン液体は,金属元素によって分光特性,触媒的特性,磁性などが変化するため,発光材料・触媒・磁性体などの応用分野で注目を浴びている.特に[C4mim][FeCl4]は磁場に応答するイオン液体として,新しい分離方法を開拓できると期待される.f元素などの金属錯体を分離するときには対象とする化学種の構造を解析する手法が求められる.金属イオンを高濃度に含有する溶液では消光剤や妨害イオンも多いために構造分析にあたって複雑なスペクトルを解析せねばならず,こうした分析には時間分解法が有効である. 本年度の研究では,時間分解型レーザー発光分光法によって磁性イオン液体中におけるf元素錯体の構造評価が可能であるか検討した.イミダゾリウム,4級アンモニウム,4級ホスホニウム塩をカチオン部位としテトラクロロフェラートをカチオンとする金属含有イオン液体:[C4mim]FeCl4, [Nm,8,8,8]FeCl4, [P6,6,6,14]FeCl4, をそれぞれ合成し,室温および低温下における磁化特性を調べたのちに,これらの中に溶存した錯体の発光スペクトルを調べた. 結果として,室温で常磁性的応答を示したが, 2Kの下有限磁場において反強磁性相関を示唆するヒステリシスが観測された.これにより,ゼロ磁場で自発磁化を持つ液体の創世に一歩近づいた.イオン液体中のアニオンの構造はレーザーラマンにより決定され,実験の範囲内では単核錯体であることが確認された.また,水相および有機相と分離し第3相を保持したまま永久磁石で分離・移動可能であった. また,錯体の溶解度は高くなかったものの,時間分解レーザー発光分光では[C4mim][FeCl4]中における塩化ユウロピウム錯イオンの室温付近で発光スペクトルが先鋭化し,クエンチャーである水の含有量が少ないにも関わらず,水溶液あるいは一般的な有機溶媒中と比べて短い発光寿命を持つことがわかった.また,[C4mim][FeCl4]イオン液体中におけるユウロピウムイオンの発光強度は極めて低く,室温における外部磁場による磁気双極子遷移の特性変化は認められなかった.電気双極子のピークは固体中の錯体のように大きく割れたスペクトルをもち,裸のイオンの構造に近い状態でユウロピウムが溶存している可能性が示された.
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