Research Abstract |
本研究は,温度勾配を課した多孔質が温度勾配の方向に気体を輸送できることを用いた熱駆動型多段式ポンプの性能を,分子気体力学(希薄気体力学)に基づく系統的な解析により明らかにすることを目的としている.ここで,気体輸送の駆動力は,希薄気体に特有な「熱遷移流」によって担われており,分子気体力学に基づく解析は必須である. 昨年度までの研究において,正方配列円柱群(本研究で用いた多孔質のモデル)を過ぎ希薄気体流の振る舞いを記述する拡散モデルを,ボルツマン方程式の標準モデルであるBGK方程式と拡散反射境界条件に基づき系統的に導出し,さらに,異なる円柱径を持つ円柱群が隣接する場合に,拡散モデルと併せて用いるべき接合条件を導出した.本年度は,それらを用いて熱駆動型ポンプの性能評価を数値的に行った.その結果,多数の円柱群を直列に連結することにより,有意の性能(例えばポンプによって維持される圧力差)が得られることがわかった.その一方で,逆向きの温度勾配を持つ各円柱群で対抗する流れが生じるため,連結数を増やしても全体のパフォーマンスがなかなか上がらない問題も生じた.そこで,2種の異なる円柱群を隣接させるのではなく,円柱群と流路を交互に連結するタイプのポンプを考え(温度分布は円柱群のみに与える),この場合の拡散モデル,流体モデル,接合条件の導出を行った.拡散方程式系に基づく数値解析の結果,この場合,流路が十分長ければ流路内に対抗流は誘起されず,多孔質内の熱遷移流を効果的に増幅できることが明らかになった.本研究ではポンプの性能を,分子気体力学の標準的な枠組みの中で,系統的解析によって定量的に評価することに成功しており,学術的な価値は非常に高い(論文投稿中).また,この種の熱駆動型ポンプは,熱源として排熱等の低次元のエネルギーを用いることができるため,低炭素社会の実現に寄与できるものと考えられる.
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