Research Abstract |
ロボット技術を利用して人間の熟練した技能を再構築する,言わば"技能の技術化・デジタル化"がテクノロジーの発達とともに可能になりつつある.すでに製造業分野では,人間では不可能な高精度の作業がロボットによって実現されている.高度な技能を要求される医療分野においても医療診断・手術ロボットの開発により熟練した専門医のように人体に対して安全に接触動作するとともに,人間の能力を超える,高精度な診断・手術を実現することが期待されている. 具体的に,暗黙知としての専門技能を技術として明らかなものとし(形式知),これを機能として医療支援システム上に実装することで,デジタル情報として医療技能を共有・再利用・改良することが可能になり,熟練した専門医のように人体に対して安全に接触動作するとともに,人間の能力を超える高精度な診断・手術を行なう画期的な医療診断・手術支援システムが実現するものと期待されている. 近年,急速に高度・専門分化してきた医療診断・手術技能に対して,個々の専門技能に対応できる医師の数は限られる.このような医療分野の特殊事情から,医療技能・技術の維持・強化が困難になってきている.この問題を克服するために,医療技能の技術化・デジタル化が今後ますます必要になる. 本研究課題は,技能の高度化あるいは専門分化の進展が特に顕著な下記の2つの医療診断・手術技能を取り上げ,これらの技能を技術化・デジタル化する方法の確立を目的とする.具体的には,暗黙知としての専門技能を技術として明らかなものとし(形式知),これを機能として医療支援システム上に実装した後,その有効性を検証することを目的とする. 本研究では,下記にあげる4つのシステムに対して,技能の技術化・デジタル化手法を確立した.これにあたっては,(i)安全・安心接触動作技術,(ii)機構設計技術,(iii)機能抽出・構造化技術,(iv)診断・治療タスクに応じたシステム動作切替え技術,(v)医用画像処理技術が重要であった。 (1) 心臓組織癒着による再手術性評価システムとは,ロボットビジョン技術の利用により,心臓癒着度合いを客観的かつ定量的な指標を提供するシステムである.(2) 血管攣縮度の評価システムとは,ロボットビジョン技術の利用により,血管攣縮度の定量的な指標を提供するシステムである.(3) 遠隔超音波診断システムとは,診断画像や検査データのやりとりだけでなく,診断画像の獲得操作さえも専門医が遠隔で行うことにより,患者が病院で通常受けるものとまったく同等の医療サービスを遠隔地に存在する患者にも提供するシステムである.(4) 非侵襲超音波診断・治療統合システムとは,呼吸等により能動的に運動する患部を抽出・追従・モニタリングしながら,超音波を集朿させてピンポイントに患部へ照射することにより,癌組織や結石の治療を患者の皮膚表面を切開することなく非侵襲かつ低負担で行なおうとするものである.
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