Research Abstract |
本年度は, 昨年度の理論的・実証的研究によって得られた分析結果を踏まえて, 公共事業を対象とした公的討議の内容や構造を可視化するための方法論の精緻化を検討した. この目的の下, 言語学における最新の知見(コーパス言語学)を応用し, 公的討議における論点の抽出, 討議参加者間の発話類似度を検証するための方法論を提案した. その上で, 公共事業の是非を巡って関係者間で協議を執り行った実際の事例を対象として, 提案した方法論の適用可能性を確認した. さらに, 本事例分析を通じて, 討議参加者間のコンフリクトが大きいほど, その発話類似度が低くなること, 参加者の意見の類型が存在すること, 全参加者間の意見の一致度が低くなるほど, 発話類似度の分散が高くなることが確認された. 次に, 公共事業の是非を巡る議論実験を実施し, 議論の内容と実験参加者の意見の変化についての関連性を実証的に検証した. 実験参加者として大学生を選定した. この実験では, 実験参加者がペアとなり, いくつかの公共事業の是非について対面形式で討議を行ってもらった。そして, 議論の内容についてプロトコル分析を実施するとともに, 実験参加者の議題に対する実験前後の意見の変化を測定し, プロトコル分析の結果との関連性を検証した. その結果, 議論において, 協調的発話と葛藤的発話の頻度がともに高いほど, また, 参加者の沈黙が少ないほど, 意見の変化が高くなる傾向が確認され, 公的討議と人々の意見の変化についての基礎的知見を得ることが出来た.
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