2008 Fiscal Year Annual Research Report
折衷主義建築における鉄材と装飾の相関性に関する研究
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19760445
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
横手 義洋 The University of Tokyo, 大学院・工学系研究科, 助教 (10345100)
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Keywords | 折衷主義 |
Research Abstract |
19世紀に入ると、橋梁、駅舎、市場に鉄が使われてゆくが、従来の建築物に対して鉄の使用は主に構造補強と耐火性の向上をめざして普及する。とりわけ、鉄製の屋根架構は耐火性とともに、トップライトによる明るい内部空間を可能にした。チャールズ・バリーのリフォーム・クラブではイタリア・ルネサンス風の中庭がガラス屋根によって内部化され、オックスフォード自然史博物館ではゴシック構造を模した鉄骨がガラスのアトリウムを形づくっている。とくにオックスフォード自然史博物館のアトリウムは、ゴシック聖堂のごとく身廊と側廊に分けられ、それぞれに切妻屋根が架けられている。この身廊と側廊の屋根が谷となる部分で興味深い発見がある。それは、この部分を支えるほっそりとした鋳鉄柱がおそらく雨樋の役割を果たしていることである。すなわち、鋳鉄によって実現した中空の柱は、屋根を支える構造的な要素、また、ゴシック的空間を象徴する表現的な要素、最後に、雨仕舞いという設備的な要素を併せ持つのである。鋳鉄の雨樋は建築の外部に表現要素として徐々に表面化しつつあった。アトリウム内の鋳鉄柱は一般には知られない室内的な表現要素であるものの、建築に欠くべからざる機能的な役目を着実に果たしつつあった。設備機能は近代建築に重要な要素であるが、その表現のあり方は長らく問題となり続ける。一見すると構造的にして装飾的な要素に隠された機能があったとすれば、その発想は近代建築史上きわめて示唆的であると言わねばなるまい。
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