2009 Fiscal Year Annual Research Report
折衷主義建築における鉄材と装飾の相関性に関する研究
Project/Area Number |
19760445
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
横手 義洋 The University of Tokyo, 大学院・工学系研究科, 助教 (10345100)
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Keywords | 折衷主義 |
Research Abstract |
近代の新しい材料である鉄が、公共建築に応用されるようになるのは18世紀末のことである。しかしながら、鉄がそれとわかるかたちで外観に表現されることはなかった。この事実は、イギリスの建築家ジョン・ナッシュのキャリア見て取ることができる。ナッシュはかなり早い時期から、自身の建築作品に産業革命の成果である鉄材を積極的に取り入れている。このなかで興味深い事実が次の二点である。第一に、この時期にナッシュが手がけた田園住宅に密かに鉄材が用いられている点。こうした住宅は郊外の自然のなかに立地する田舍風の様式をまとうが、この牧歌的なスタイルと鉄材が共存している。鉄材はおもに窓周りに用いられる。ただ、外観上は、あくまで伝統的な木材の雰囲気を醸しており、外から鉄材と見分けるのはきわめて難しい。第二に、ナッシュが用いるエキゾティックな様式表現に鉄材が欠かせない要素であった点。ブライトン・パヴィリオンはこの事実を示す象徴的な作品である。インド風の外観、玉葱型ドーム、手すり、円柱がすべて鉄でできている。もっとも独特なドームには、内部にこの外観を支えるための補強鉄が仕込んである。ドーム表面とはまったく無関係な構造である。ここではエキゾティックな外観の実見が最優先であり、鉄の構造はいわば裏方の骨組みとして考案された。ユニークな外観表現をかなえるための実験的試みは見えないところで確実に進行していたのである。
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