2008 Fiscal Year Annual Research Report
アミノ酸窒素同位体比で解く湖沼生態系構造の変遷:新たなる食物網解析手法の提案
Project/Area Number |
19770022
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
小川 奈々子 Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology, 地球内部変動研究センター, 技術研究主任 (80359174)
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Keywords | アミノ酸 / 窒素安定同位体比 / 近過去生態系変動 / 湖沼環境 / 窒素循環 |
Research Abstract |
本研究の目的は「アミノ酸化合物の窒素同位体比」による、水域生物の食物網解析手法の確立である。アミノ酸化合物の窒素同位体比の生態学的利用に関しては、既に一次生産者(栄養段階(TL):1)と一次消費者(TL:2)の生物に関して、(A)水棲生物種間でアミノ酸種間の安定同位体比分布のパターンが類似し、(B)特定のアミノ酸種でのみ捕食による15N濃縮がある、(C)特定のアミノ酸窒素同位体比分布から「栄養段階の算出」が行えることが示されている。昨年度は栄養段階の明らかな培養/天然生物(植物プランクトン・動物プランクトン・魚類)を用いて、TL3以降の高次消費者(魚類)での本手法の正確性と、化学固定保存の影響が分析誤差の範囲内であり、標本試料からの生態系構造復元が可能であることを確認した。 本年度は、さらにバイカル湖で過去50年間に採取されたサケ科魚類ウロコ、1995年に採取された沖帯生態系試料を測定し、バイカル湖生態系内の窒素を中心とした捕食生態系を再現し、過去の生態学的な観察研究で得られた知見とのその整合性を確認した。また、琵琶湖流入河川では、アミノ酸窒素同位体比法による魚類の栄養段階と一次生産者窒素同位体比の復元を行った。この結果、琵琶湖の一部河川で観測されてきた、魚類の全窒素同位体比における顕著な15N濃縮の原因が、これまで考えられてきたような、環境変動による魚類の食性変化(栄養段階の上昇)ではなく、河川水中の無機態窒素同位体比の変化であったことを明らかとなった。これは従来の全窒素法では長期にわたる観察と、多種試料の採取・測定を必要とするが、アミノ酸手法を用いることで、数匹の魚類試料の採取・分析により明らかにすることが可能となった。本手法の有用性と今後への可能性を端的に示す結果であると評価している。
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