Research Abstract |
本研究では,黄色ブドウ球菌由来IsdHのNEATドメインの構造と機能を解析することを目的としている.昨年度までに,アポ状態のIsdH-NEAT3ドメインの構造解析は完了していたが,今年度は,IsdHのNEAT3ドメインのヘムとの複合体の立体構造を,分子置換法により1.9Åの分解能で決定した.ヘム分子は,IsdH-NEAT3ドメインの分子表面に結合し,Tyr642の側鎖の水酸基が中心の鉄原子に配位し,Ser563,Tyr646がヘムの側鎖と水素結合を形成していた.ヘム結合部位には,Ser563, Val564, Met565, Phe568, Tyr593, Trp594, Val635, Val637, Ile640, Tyr642, Tyr646, Val648が存在しており,比較的疎水的な環境となっていた.また,ヘムの結合により周辺に存在するβ-ターンが構造変化し,ヘムを挟み込む形で結合することが明らかになった.IsdH-NEAT3ドメインと結合したヘムの接触可能表面積は340A^2と算出され,表面の44%が露出していた.他のヘム結合蛋白質においては,このように大部分が露出した形で結合している例はなく,したがって,このようなヘム結合様式はIsdシステムに特徴的なものあるといえる.Isdシステムが,宿主からヘムを獲得し,黄色ブドウ球菌体内にヘムを輸送する機構であることを考えると,ヘムが蛋白質の表面に結合することは,次の分子へとヘムを受け渡すための分子機構であると推察される.これらの知見は,研究開始当初には得られていなかった知見であり,今年度の研究成果によりIsdシステムの解明が大きく前進したといえる.
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