Research Abstract |
本研究は,無細胞タンパク質合成技術を利用して光受容膜タンパク質の大量機能発現系を開発し,詳細な機能解析に応用することを目的とする。昨年度までに合成技術の開発は完了した[Protein Sci.,18,2160(2009)]。さらに大腸菌で大量発現が困難とされている光受容膜タンパク質(海洋性藻類由来のロドプシン(ARI,ARII))に対し本技術を適応し,ARI,ARIIともに構造を保持したと思われる状態で大量合成できることを確認した。本年度は,無細胞タンパク質合成したARI,ARIIに対し詳細な機能解析を行った。レーザーフラッシュフォトリス法により,それらの光化学反応を測定した結果,ARIは,センサー型(SRI,II)のようにフォトサイクルが完結する時間が遅く秒オーダーであったのに対し,ARIIは,ポンプ型(BR,HR)と同様に速いミリ秒オーダーのフォトサイクルであることがわかった。このことは,両者の生理的機能が異なる可能性を示唆している。また透明ガラス電極(ITO)による光誘起プロトン移動を測定した結果,中性付近では両者ともにBRと異なりタンパク質内部へのプロトン取り込みが放出に先立ち観測された。この結果は,BRでのプロトン放出残基が欠失していることに由来していると考えられる。また本年度は,大腸菌で大量発現が困難とされている別の光受容膜タンパク質(チャネルロドプシン)についても無細胞タンパク質合成を試みた。その結果,ポリペプチド鎖の大量合成は確認できたが,機能体の合成は確認できなかった。今後,合成条件(脂質や界面活性,合成温度)の検討を行う必要がある。またポリペプチド鎖は大量合成できるため,可溶化,界面活性剤除去によるリフォールドを試みる予定である。
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