Research Abstract |
新奇形質の獲得は生物の形態進化における重要なプロセスの一つである.本研究は昆虫類の付属肢から生じる新奇形質(翅およびその関連器官)の形成基盤を比較解析することで,その獲得機構を解明することを自的としている.これまでの解析結果から,3つの器官,翅(ショウジョウバエ),気管鰓(カゲロウ類)脚基突起(イシノミ類)は,形態的機能的な相違に関わらず,いずれも発生過程の付属肢の基部背側においてwigless (wg)- vestigial (vg)シグナルが活性化することで形成誘導されるという共通基盤が明らかになった. そこで本年度は,これらの器官が共通基盤を持ちながらどのよう=に形態的差異(多様化)が生じるのかを明らかにすることとした.これらの器官は付属肢における形成部位が背腹方向で違うこと,より背側に形成される器官はより扁平になる傾向があること,などの比較形態学的情報から,各昆虫の背側領域に特に着目して解析を行なった.その結果,原始的無翅昆虫であるイシノミ類では, wg, vg, apterous遺伝子が背板と付属肢の境界近傍にも発現することを見出した.これらの発現部位は側方に伸展する背板縁と一致し,かつその発現様式はショウジョウバエの翅原基における翅辺縁部のものと酷似していた.このことから,付属肢の最も背側に形成される翅の場合,その扁平な形状は原始昆虫の背板に由来する伸長機構を用いて形成されているごとjが示唆された.一方,付属肢の最も腹側に形成される脚基突起の伸長過程では,wg, D11が発現しており,より腹側に位置する脚の伸長機構が用いられていることを示唆した.以上をこれまでの研究結果と合わせると,昆虫類の付属肢に生じる新奇形質は形成誘導基盤は共通するものの,その後は形成部位依存的に異なる伸長機構を選択するために形態的な多様性が生じていると考えられた.
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