2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19790381
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Research Institution | National Institute of Public Health |
Principal Investigator |
児玉 知子 National Institute of Public Health, 政策科学部, 計画科学室長 (80415471)
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Keywords | バイオエシックス / 医学教育 / 医療倫理 / 臨床倫理 |
Research Abstract |
【目的】医学教育において、「生命倫理」(医療倫理、臨床倫理を含む)は、これまで"医の原則"としてその重要性が認識されてきたが、実際の現場での具体的・実践的対応については、その多くが個々の判断に委ねられてきた。科学技術の進歩や受療者のニーズ・価値観の多様化に伴い、医学研究・医療従事者の対応はガイドラインやマニュアルだけでは対応できない複雑な問題を抱えるケースが増加している。このような中で倫理的判断を行うには、現場に出るまでの学部生や研修生(医)の期間に、系統的かつ継続的な教育が重要と考えられ、欧米諸国でも同様に医学教育における倫理教育カリキュラムの改善や、各国の法制度を考慮した対応を重視する動きにある。本研究では、国内医学部における「生命倫理」の卒前・卒後教育の実施状況を調査し、学習内容やカリキュラム、指導方法などについて、その問題点への対策と効果的な教育支援策について検討した。 【方法】2007年6-7月に全国80大学医学部教務・学務課担当者で同意を得られた方にプレ調査を実施し、各大学の「生命倫理・医療倫理」教育担当者・カリキュラムの有無、教育実施学年を調査した。11月に本調査として各大学の教育担当者(担当者不在の場合は教務・学務課担当者)にアンケート票を送付し、教育者の属性、教育経験、専門分野、教育目的と内容、臨床現場との協力体制(臨床倫理教育、現場の医療従事者による講義やディスカッション、ベッドサイドティーチングへの導入)、看護・保健学科との合同教育、指導者教育の必要性、6年間の医療倫理教育カリキュラム詳細などについて質問し、回答を得た。回答は原則無記名としたが、調査終了後の連絡先として同意を頂けた方のみ大学名、所属部署、名前を記入頂いた。 【結果】プレ調査では78大学(98%)から回答があり、本調査では51大学(64%)・計74通(うち大学名記載なし10通)から回答があった。プレ調査では医療倫理を履修する学年として低学年が高率(1年次60.3%)で、5-6年次は約20%、本調査では臨床倫理教育を51%が実施しているものの、ベッドサイドティーチングへの導入は「あり」24%、「なし」37%、「わからない」39%、現場の医療従事者を交えた講義やディスカッション「あり」は46%であり、教育時期が適切かどうかについても検討すべきと考えられた。また、医療倫理教育担当者が一貫してカリキュラムを担当していたのは約30%であり、学生がいつ、どの時点でどのような教育を受けるか把握しにくい状況であった。講義各論としてインフォームドコンセントは100%で履修されており、他に扱われるトピックで高率であったのは終末期医療86%、安楽死・尊厳死86%、高度先進医療78%、続いて医療倫理と法律64%、プライバシー57%、職業倫理48%、治療拒否45%、高齢者医療(認知症含む)34%、公衆衛生と人権33%、精神科医療28%等だった。看護学生や、保健学科などの他学部との合同教育の必要性は63%が認めているものの、実施校は15校であった。 【考察】現状の課題としては、低学年での教育体制は比較的よいものの、高学年・特に臨床実習を実施する時期での実践的な倫理的指導、討論・考察を行える体制の不備を指摘する意見が多かった。また医療倫理が個々の科目の中で実施されており、体系立っていないとする大学も多く、今後は、6年間を通した医療倫理教育の体系化、臨床における倫理的課題への対応を教育する体制の整備が必要と考えられた。 【結論】医療倫理の重要性が再認識されている昨今であるが、医学部教育の実情にはばらつきが大きく、人的資源も乏しい。今後は指導者育成や卒後の生涯教育も含めた長期対策支援が必要である。
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