Research Abstract |
非小細胞肺癌の約半数で異常が認められ,乳癌,食道癌等様々な悪性腫瘍において失活しているp16をはじめとして,その類似遺伝子p15,p18,p19は総称してINK4ファミリーと呼ばれ,いずれも重要な癌抑制遺伝子と考えられている。INK4ファミリーはサイクリン依存性キナーゼを阻害し,癌抑制遺伝子RBを脱リン酸化させ,細胞周期をG1期で停止させて細胞増殖(発癌)を抑制する。本研究は,INK4ファミリー遺伝子の発現を誘導できる物質を主に食品成分より探索し,その機構を解析することで,新たな癌の分子標的予防法の開発を目指すものである。本年度はINK4ファミリー中のp15について,EGFRを標的とした分子標的抗癌剤ゲフィチニブと,新規MEK阻害剤JTP-70902がP15を誘導することを見出し,その分子機構について解析を行った。いずれの薬剤についても,p15はヒト大腸癌由来HT29細胞などにおいてMEK経路の阻害によって発現が誘導されること,またその分子機構はmRNAの安定化である可能性が示唆された。さらに,p15を欠失した細胞ではゲフィチニブ及びJTP-70902のそれぞれに対し薬剤感受性が低下したことから,p15発現誘導能の有無がこれらの薬剤感受性に深く関係している可能性が示唆された。また食品成分においては,ヒト大腸癌由来HT29細胞を大豆由来成分のゲニステインで処理すると,p15がタンパク質レベルで誘導されることを見出した。ゲニステイン処理によって細胞はG2/M期停止が誘導されたが,p15は前述の通りG1期停止を促すはずであり,ゲニステイン処理によって誘導されるp15がどのように細胞内で機能しているかは現時点で不明である。今後は更なるINK4ファミリーの発現を誘導する薬剤の探索を,主に食品成分に対し行い,既存の抗癌成分との効果的な併用法の検討も行いつつ,継続する予定である。
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