Research Abstract |
当該研究を通し,広汎性発達障害の成人の就労阻害要因として,併存精神疾患の存在,家族サポートの脆弱性,過去のいじめや不登校など心理的要因が存在することが明らかになっている。今年度は,高機能広汎性発達障害の就労ならびに生活自立を妨げる要因として抽出された諸項目のうち,併存精神疾患とそれに対する医療的支援とリハビリテーションに焦点を当てて検討を行った。なかでも,気分変動,精神病状態,行動化が臨床的関与の対象となることが多い。本研究を通して,パーソナリティー障害と類似の行動かが認められてもその背景となる精神病理には相違があること,しばしばうつ病や双極性障害を併存するが,併存例では行動化が起こりやすいこと,広汎性発達障害にはしばしば精神病症状が併存するが,反応性の色彩を残していることが明らかになった。さらに,必要となる薬物療法と環境調整,そのなかでのリハビリテーションの役割について検討し,論文,書籍にまとめた。加えて,広汎性発達障害の中核症状の生物学的評価として,対人認知と脳血流を指標にした検討を加え,前頭葉機能と扁桃体を中心とする皮質下機能の相違を明らかにし,その成果を論文で公表した。本研究の結果は,広汎性発達障害の生活自立を目指した支援において,中核症状の特性の理解にとどまらず,併存障害を含めた多面的なアプローチが重要であること,そのなかでも精神科医療やリハビリテーションの役割が重要であることを示していると考えられた。
|