Research Abstract |
妊娠期の母親の摂取によって,胎児がアルコールに曝露されたときに発症する胎県性アルコール症候群(FAS)に対して,侵襲の少ない経静脈的神経幹細胞移植による治療の可能性についてラットを用いて検討した。妊娠10〜13日の母親ラットにエタノールを投与し,出生した仔をFASモデルとした。FASモデルラットでは多動性と衝動性が高く,FASの臨床症状と同様の症状を認めたが,生後1ヶ月にラット胎仔の脳より採取した神経幹細胞を経静脈的に移植すると,移植1ヶ月後には,これらの行動異常は正常ラットと同等の程度まで改善した。 移植したNSCは,放射性同位元素と蛍光色素で標識しており,経静脈的移植後の脳内への移植細胞の移行性と脳内分布についても検討した。移植1ヶ月後の脳組織を液体シンチレーションカウンターで測定した結果,対照移植群に比べ,FAS移植群で放射活性がより高い傾向を認め,FAEモデルラットにおいては,脳の神経回路に異常が生じているために,移植した神経幹細胞が障害を受けた脳内により積極的.に移行している可能性が推察された。FAS移植群の脳スライス切片を用いた解析では,蛍光色素標識した細胞が脳内の広い範囲に分布していることを観察した。また,脳の特に帯状回,海馬,および側脳室下帯については,標識細胞が高密度に存在していた。脳内で検出された標識細胞の一部は軸索形成と考えられる形態変化を示していた。 経静脈的移植は侵襲が少な,いことが利点であるが,移植した細胞のうち脳内に移行するのは数%であると言われている。移植細胞の脳内移行の効率化を図る目的で,生体親和性が高く抗原性が極めて低いアテロコラーゲンをNSC浮遊液に混和しで,アルコール依存症モデルラットに移植すると,脳内への移植細胞の移行量が増大した。このことからアテロコラーゲンは経静脈的神経幹細胞移植の治療効率を向上させる可能性があると期待している。
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