Research Abstract |
海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻に対し, 選択的な経静脈塞栓術による, より安全かつ効率的な治療法の確立を目標とした. 前年度の回転血管造影(DSA)を用いた33症例の海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の検討において, 栄養血管, 短絡部, 短絡する静脈嚢はそれぞれ, 5.5本, 2.9箇所, 2.1個であり、全体のうち84パーセントの症例では短絡する静脈嚢は2個以下で, また33症例中28症例では海綿静脈洞の後方内側部分に短絡をしていたことから, 大部分の症例では選択的な経静脈的塞栓術が適応できることが判った.短絡部を正確に把握するには回転血管造影の元画像軸位再構成, MRA元画像を連続性に観察することが有用であり, 選択的塞栓術における短絡部へのアプローチ, コイル留置において必須の情報であった.さらに海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の還流静脈の検討も行い, 危険な深部静脈還流路のパターンの解析を行うことにより全症例の約18%に選択的に塞栓困難な架橋静脈を介する深部静脈還流が存在することが判った. これらの知識は経静脈的塞栓を行うにあたり重要となると考えられた. これらの結果を踏まえ, 経静脈的に短絡部の選択的な塞栓術を試行し, 完遂できた2症例では, いずれも後方内側部分に短絡があり, 同部を選択的に塞栓することで治癒できた. 使用したコイルは平均8本(7本, 9本)であった. 正常な静脈還流を温存しつつ, 従来の海綿静脈洞を塞栓した場合に起こりうる, 海綿静脈洞内を走行する脳神経症状の増悪を回避することが可能であり, またコイルの使用本数を減らすことにより, コストパフォーマンスの改善が得られ, 患者および医療従事者の被曝低減に繋がるものであった. 但し, 選択的塞栓術を標準的な治療として行うには, 術者の熟練が必要であるとともに, 症例の解剖学的な変異や短絡部の数などによってマイクロカテーテルの挿入が技術的に困難な場合もあり, 事前に詳細な画像評価を行って, 治療戦略を立てることが重要である.
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