Research Abstract |
齲蝕原因菌(MS)およびデンタルプラーク(p1)の性状は, 環境により影響を受けることが明らかとなってきており, 近年, それらに関連する遺伝子領域についても明らかになってきた。今回, 我々は, 環境の変化(特に酸)について着目し, 小児におけるp1とMSの変化について検討を行った。 まず, プラークに含まれるS. mutans(以下S.m), S. sobrinus(以下S.s)の量について, Yoshidaらの報告を参照し, リアルタイムPCR法を用いて定量的な検討を行った。その結果, 対象者の100%からS. mが, 60%からS. sが検出された。また, 齲蝕経験歯率とplに含まれる菌数との関係を比較した結果, 相関係数はS.mで0.25, S. sで0.54であった。一方, Cariostat値とplに含まれる菌数との関係は, 相関係数がS. mで0.003, S. sで0.12となり共に低かった。次に, 臨床より分離したMSを用いて, 耐酸性能とそれに関わる遺伝子の発現について検討を行った。まず, 臨床分離株について, pH5の緩衝液中での生存率を検討したところ, plのCariostat値と関連があることが明らかになった。次に, Kunhertらの報告を参照し, 耐酸性能が高い株と, 低い株について, pH5(酸性)とpH7(中性)に調整したBHI液体培地中でのF-ATPaseのmRNAの発現について, リアルタイムRT-PCR法を用い, 各5株ずつ検討を行った。その結果, 酸性環境下におけるF-ATPase遺伝子のm-RNA発現量は, 中性環境下に比べ高耐酸性株群では30%上昇したが, 低耐酸性群では33%減少した。 以上より, 齲蝕経験歯率とMSの菌数は相関する傾向が見られた。しかし, plの酸産生能と細菌量は, 相関しない傾向が見られた。また, MSのうち耐産生能が高い株はF-ATPaseの発現量が2倍程度高いことが示された。従って, 酸産生能は菌量ではなく, MSの性状と関係が深い可能性が示された。
|