Research Abstract |
岩手県花巻市大迫町在住55歳以上の一般住民に対し頭部MRI撮影,脳心血管病危険因子の調査および歯科検診を実施し,頭部外傷および症候性脳卒中の既往が無く,適切なデータが取得できた230名について,歯周病と無症候性脳血管障害(ラクナ梗塞と白質病変)との関連を検討した.歯周病の指標には,歯周ポケット,アタッチメントロスおよびパノラマエックス線画像から測定した歯槽骨吸収度を用い,それぞれの平均値から均等三分割により軽症群(47名),中等度群(47名),重症群(47名)の3群に分類した.歯周病の評価は10本以上の歯を有する者についてのみ行い,現在歯が10歯に満たない者は多数歯欠損群(89名)として取り扱った. 分析には多重ロジスティック回帰分析を用い,歯周病軽症群に対する中等度群,重症群および多数歯欠損群の無症候性脳血管障害を有するオッズ比を求めた.補正項目は年齢,性別,BMI,喫煙暦,飲酒暦,糖尿病,高脂血症,降圧薬服用の有無,家庭血圧とした. 分析結果を以下に示す. 1.歯周病が重度になるほど,ラクナ梗塞,WMHともに有病率が上昇する傾向がみられた.また,その傾向は歯周ポケット,アタッチメントロス,歯槽骨吸収率のいずれの歯周病指標を用いた場合でも認められ,とりわけ歯槽骨吸収率を用いた場合に顕著であった. 2.歯槽骨吸収率で評価した歯周病重症群は,軽症群に対して他の危険因子と独立してラクナ梗塞を有する有意に高いオッズ比(OR=12.6)を示した. 3.多数歯欠損群におけるラクナ梗塞の有病率は歯周病重症群よりも低値を示したのに対し,WMHの有病率は歯周病重症群よりも高かった. 4.多数歯欠損と無症候性脳血管障害との間の関連は,他の危険因子での補正後には認められなかった. 以上より,歯周病と無症候性脳血管障害との関連が明らかとなり,重度の歯周病がラクナ梗塞の危険因子である可能性が示唆された.
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