Research Abstract |
本研究は,人と社会的なマルチモーダル・コミュニケーションができる対話システムの基礎理論として,非言語チャネルも含めた社会的行為のやりとりを構成する要素(行為素)を明らかにし,その配置規則を人々の行動から抽出することを目的とする.社会的行為とは,会話中に表出された行動のうち他者に適切な反応を要求するものであり,コミュニケーションに寄与する言語・非言語行為を指す. 本年度は,(1)日常的会話データデータとして,コンビニエンスストアでの買い物シーン,飲食店での注文シーンを計6,5時間分収集し,(2)発話内容の書き起こし,非言語行為のアノテーションを行った.非言語行為のタグ内容としては,会話データにおけるインタラクションの様相を観察し,必ず対になって生起する行為を取り上げた.商品を渡す-受け取る,代金を渡す-受け取る,箸を渡す-受け取る,お釣りを渡す・レシートを渡す-受け取るなど計22種類の行為セットが特定された.これらの行為は,社会的行為として人々が日々行っているやり取りを構成する行為素群である.そして,(3)行為素対を構成する各行為素の時間的生起順序を明らかにした.タグ付けした行為素対を網羅的に調べた結果,以下のような生起規則が抽出できた.その規則とは,(a)先行して生じた行為素の動作が完成するとほぼ同時に,続いて生じた行為素の行動が完成する.(b)先行した行為素の動作開始と終了はいずれも,後続した動作の開始・終了よりも前に発生する,というものである.例えば,商品を渡す-受け取るという対であれば,商品が渡される瞬間と渡される瞬間はほぼ時間的に一致している.ところが,渡すという行為が開始される時間,終了される時間はそれぞれ,受け取るという行為が開始される時間,終了される時間よりも早い.これらの結果は,一部の会話シーンだけから抽出されたものではあるが,非言語行為を含む行為のやり取りに関する一般的な配置規則を定式化する上で,非常に重要な知見である.
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