Research Abstract |
本研究は,液中で原子分解能を有する原子間力顕微鏡に対して,温度制御、濃度制御機能を付加する装置開発と,開発した装置を用いた生体膜の分子レベル研究を目的としている。平成19年度は,温度制御機能と濃度制御機能を付加する装置開発を中心に行った。新たな試料スキャナ,試料ホルダ,カンチレバーホルダを設計、製作し,原子、分子分解能を維持したまま探針位置をかえることなく,溶液を置換できるシステムの開発に成功した。開発したホルダは,従来の大気開放型のオープンセルではなく,密閉型のクローズドセルになっているため,溶液の蒸発が避けられイオン濃度などが精密に制御された条件下で実験をすることが可能となった。一方,温度制御機能については,ペルチェ素子により温度制御された恒温槽を開発し,その中に装置全体を入れて利用可能とした。現在,室温から37℃へと設定温度を変更した際に,1時間以内に約±1℃以内の精度で装置全体のあらゆる部分の温度を制御することが可能となっている。温度のばらつきのほとんどは,試料ホルダ周辺のポリマー材料で構成された部分で生じている。これは,金属に比べてポリマー材料の熱伝導度が大幅に低いことに起因するが,この点を解決すれば,より短時間により高精度な温度制御が可能となる。対策としては,試料ホルダ周辺のみを温度制御するための小型のセラミックヒータか,もしくはペルチェ素子を導入することを検討している。また,溶液置換機能を利用すれば溶液温度を外部で制御し,その溶液でセル内の溶液を置換することも可能であり,この方法も含めて対策を検討する。溶液置換機能はすでに利用可能となっているため,脂質二重層などのモデル生体膜をイオン種やイオン濃度を換えて観察するなどの実験を開始しており,平成20年度の応用実験へとつながる準備が整いつつある。
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