2007 Fiscal Year Annual Research Report
大西洋を渡るオリシャ崇拝:アメリカ黒人の社会運動とともに変容するナイジェリア宗教
Project/Area Number |
19820011
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小池 郁子 Kyoto University, 人文科学研究所, 助教 (60452299)
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Keywords | オリシャ崇拝 / ナイジェリア / アメリカ合衆国 / 真正性 / 黒人 / 人種的本質主義 / 植民地主義 / 文化人類学 |
Research Abstract |
本年度の研究では、アメリカ黒人の社会運動(オリシャ崇拝運動)におけるつぎの事象について考察を試みた。すなわち、オリシャ崇拝のなかでもより真正であると解釈されるナイジェリアのオリシャ崇拝をもとめて、ナイジェリアとアメリカ合衆国のあいだでみられる宗教的な移動に着目し、その移動によって生じる文化接触について考察した。そのうえで、同じ「人種」や「抑圧(被害者)の歴史」を共有しているとされながらも「近代/未開、抑圧/被抑圧」という植民地主義的な関係に位置づけられてきたアメリカ黒人とアフリカ大陸の黒人(ナイジェリア人)が、オリシャ崇拝を通じて積極的に交流する社会的、文化的な要因を検討した。 本年度の研究は、オリシャ崇拝の真正性をめぐってアメリカ黒人とナイジェリア人が相互交渉的な関係を構築しようとする文化行為は、それぞれ以下の理由から促進されていることを明らかにした。オリシャ崇拝を実践するアメリカ黒人が、ナイジェリアでオリシャ崇拝の知識と技術を経験しようとする背景には、彼らが活動する米国のオリシャ崇拝・コミュニティのなかで宗教的権威(名声)を獲得したいという目的がある。一方、ナイジェリアでオリシャ崇拝・コミュニティを運営するナイジェリア人司祭が、アメリカ黒人を顧客(成員)として受容する背景には、米国で就学・就業機会を獲得することや宗教・文化活動の市場を拡大するという目的がある。さらに、両者のこのような文化接触はナイジェリアと米国のオリシャ崇拝につぎの変化をもたらしている。ナイジェリア人司祭は、ナイジェリアでは伝統的に承認されていない儀礼をアメリカ黒人の要求に応えるために執行している。また、アメリカ黒人はナイジェリアのオリシャ崇拝・コミュニティで異宗教が共存していることを実際に体験することで、彼らのオリシャ崇拝運動の原理主義的な性質をとりわけ実践レベルにおいて弱めつつある。
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