2008 Fiscal Year Annual Research Report
大西洋を渡るオリシャ崇拝:アメリカ黒人の社会運動とともに変容するナイジェリア宗教
Project/Area Number |
19820011
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小池 郁子 Kyoto University, 人文科学研究所, 助教 (60452299)
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Keywords | オリシャ崇拝 / 黒人らしさ / 抵抗 / パフォーマティヴィティ / 文化接触 / 植民地主義 / ナイジェリア / アメリカ合衆国 |
Research Abstract |
本年度の研究からは、つぎのことが明らかになった。すなわち、オリシャ崇拝運動は、1950年代後半に、「反白人・反キリスト教」主義を標榜して組織化され、集合的な運動が実践された。その後、この運動は、1980年代半ばにオヨトゥンジ村から成員が大量に流出するという転換期を迎えたが、「反白人・反キリスト教」主義と、集合的な運動実践という形態を変化させながら現在もなお展開されている。以上を踏まえれば、黒人らしさを単純に抵抗とみなすことはできない。 アメリカの黒人にみられる黒人らしさとは、礼賛されるにしろ非難されるにしろ、アフリカのイメージと関連づけて解釈されてきた。しかしながら、オリシャ崇拝者は、アフリカを文明と文化で捉え直すことで黒人らしさそのものを定義し直した。これによって、黒人らしさの実践とは、もはや抑圧的な白人の支配文化にたいする抵抗ではなく、能動的に実践できる伝統や文化を創り出し、その伝統や文化を共有する社会空間を形成するための共同性を編み出すことになったのである。オリシャ崇拝者は、この共同性にもとづいて築かれた社会空間にかぎってではあるが、社会の周縁ではなく中心に身を置くことができる。さらに、彼らはオリシャ崇拝をパフォーマティヴに実践することで自己と他者とのあいだに信頼関係を築き、つながりの感覚を創出している。このつながりの感覚は、アメリカのオリシャ崇拝者のあいだにとどまるだけではなく、固定的な民族や宗教の枠組みをこえてひろがる可能性を呈している。 また、オリシャ崇拝運動では、アフリカ系アメリカ人とアフリカ(ナイジェリア人)との文化接触が相互交渉的におこなわれている。この背景には、真正なオリシャ崇拝をめぐる両者のやりとりが認められる。なお、こうした両者の相互交渉をきっかけにして、オリシャ崇拝運動とそれに触発されてアメリカの各地に根づくハウスは、人種的、宗教的に包摂的な境界を形成し始めている。
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Research Products
(2 results)