2008 Fiscal Year Annual Research Report
16-17世紀イエズス会倫理思想と日本布教との相関関係に関する実証的研究
Project/Area Number |
19820028
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
折井 善果 Nihon University, 商学部, 講師 (80453869)
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Keywords | 日欧交渉史 / 倫理神学 / イエズス会 / キリシタン / 比較思想 / 比較宗教 / 日本キリスト教史 |
Research Abstract |
前年度の反省から、「研究計画」に掲げた16-17世紀日欧思想交渉史の思想的側面における二方向の研究対象、すなわち「徳川初期日本倫理思想の確立にキリスト教との接触が与えた影響」と、「ヨーロッパ近代思想の創生に日本との交流あるいは思想対決が与えた影響」のうち、後者の考察に着手した。計画時には、キリシタン版とヨーロッパ原版との対照分析、および来日イエズス会士の書簡を具体的な資料として提示した。しかしイエズス会の倫理神学思想自体の変容に関していくつかの点が明らかになり、日欧双方の影響関係を考察する以前の段階に研究の主眼が置かれたことを指摘しなければならない。そこで明らかになったのは、まず、ロヨラを中心とする会の第一世代は、同会の教育機関において、キケロの修辞法を中心とした人文主義教育を行うことを必ずしも構想していないという点である。さらに、ロヨラの没後イエズス会教育機関は、神学者のみならず地元の貴族の子弟への教育を担うことでヨーロッパ中に広まり、貴族らが望む高度な人文主義教育が会の教育課程に取り入れられていったが、この、修辞学の鍛錬を主とする人文主義教育が、神学倫理の解釈に漸次的な変化を生じさせている点が明らかになった。具体的には、ある倫理的事項における善悪の判断が、人の判断より掟を優先させる立場から、蓋然的に正と思われることの承認を優先させる立場へと変容していった、すなわち善悪の判断が人間の良心問題、あるいは説得術としての修辞的操作の領域に引き寄せられていったということである。R.A.Maryksの研究(Ashgate,2008)はこの点を確証する研究として役立った。確かに、G・バスケスの日本の特殊事情に関する神学的判断は、その判断を仰いだヴァリニャーノの修辞学的な巧みさに多くが依存するように思われる。このようなイエズス会の神学思想の変容がと布教活動との関係性については、いまだ史料的根拠に乏しく今後の課題としたい。
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Research Products
(4 results)