2008 Fiscal Year Annual Research Report
近世日本における輸入・国産織物の競合と共存:オランダ史料に見る工業化の歴史的前提
Project/Area Number |
19820055
|
Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
藤田 加代子 Ritsumeikan Asia Pacific University, アジア太平洋学部, 准教授 (90454983)
|
Keywords | オランダ東インド会社 / イギリス東インド会社 / 商品連鎖 / 繊維製品 / 銀 |
Research Abstract |
本研究は、1641年(オランダ東インド会社-VOC-長崎商館の設立)から1850年代(日本市場の開放前夜)までを対象に、日本貿易の数量的な実態把握とそれが国内市場に与えたインパクトの考察を通じて、19世紀後半以降の繊維産業を中心とした日本の工業化成功の歴史的基盤を明らかにし、西北ヨーロッパと東北アジアの比較を中心に進められているグローバル経済史研究に工業化以前の日本をより正確に位置づけることを最終的な目的とした。主として未刊行のオランダ・イギリス両東インド会社史料と先行研究の整理を通じ、VOCと唐船によって日本から輸出された金属(主として貨幣鋳造材料の銀および銅・金)と輸入された生糸・織物(絹・綿・麻・毛製品)等の繊維製品を分析対象とした。 VOCは、17世紀第二四半期には輸出入ともインド(ベンガル、コロマンデル、スラットなどの商館群)を主たる取引先とし、16世紀以来の日本の海外貿易のパターン(日本銀輸出-中国産生糸・織物輸入)を大きく変化させた。ただし貿易額では、銀輸出は17世紀第2四半期、インド産生糸輸入は第3四半期にピークを迎えた。代わってインド産織物が輸入品の首位を占めた。しかし国産品との比較では、1714年の大坂への移入品で国産綿織物(価額)が13.9%を占めるのに対し、長崎からの輸入品は総計で4.1%である。 ただし18世紀には消費社会の出現を受け、輸入品の影響を受けつつ、日本人好みの意匠を備えた国産品が展開した。VOCは「鎖国」下の限定された情報網を通じて日本市場の動向に関する情報を収集し、消費者の性向に合う商品調達を海外で試みていた。繊維製品を用いて貿易の経済的影響を分析する場合、文化史・美術史的な視点を組みこんだ手法を考案する必要がある。さらに18世紀後半以降について、イギリスでの綿織物生産から日本の消費者にいたるグローバル商品連鎖の解明の必要性が確認でき、今後発展させるべき研究の方向性を見出すことができた。
|