2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19830001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 陽子 Hokkaido University, 大学院・法学研究科, 助授 (90451393)
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Keywords | 刑法 / 精神医学 / 刑事政策 |
Research Abstract |
平成一九年度・前半においては、本研究のきっかけとなったフリンゲバードやヤコブスが、なぜ「単なる自殺志願者の承諾は真意ではなく(またはその蓋然性が高く)、しかし安楽死をのぞむ者の承諾は真意である」と主張したのかについて、とりわけ参考文献に注意しながら理解をすすめた。ここでは自殺前症候群についてのリンゲルという一人の精神医学者の論文だけがその論拠であることが判明した。 続いて平成一九年度・後半においては、現在の精神医学界において、リンゲルの研究が一般に認められたものか否かの研究を開始した。本研究はなお継続中のものであるが、現在得られている知識は以下の通りである。 まず、自殺前症候群という語は定着しておらす、多くの自殺者は「うつ」状態にあるとの見解は一致しているが、特別な病としての認識はなされていない。また、精神医学における、いわゆる「自殺学」においては、安楽死も通常の自殺者と同じく取り扱われている。つまり、精神医学的な根拠から単なる自殺志願者の承諾と安楽死を望む者の承諾とを区別して、両者の取り扱いを区別しようとする試みは、現在では難しい。実際に安楽死を許容しているオランダにおいては、安楽死は肉体的苦痛だけではなく、精神的苦痛から患者を解放するためにも行われうる(シャボット事件。詳細は、平野美紀「オランダにおける安楽死問題の行方-シャボット事件を中心に-」日蘭学会会誌22巻2号19頁以下参照)。 更なる精神医学的な知見を必要としているが、これまでの研究においては、安楽死について、一概に承諾の真意性を根拠とした解決は困難であることが判明しつつある。
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