2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19830016
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
上杉 嘉見 Tokyo Gakugei University, 教員養成カリキュラム開発研究センター, 講師 (10451981)
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Keywords | 教育学 / カリキュラム / コマーシャリズム / 企業 |
Research Abstract |
本研究は,日本の学校で急速に広がりつつある民間企業による教育活動を取り上げ,それが,学校が本来持っているはずの公共的な性格に及ぼす影響の解明を試みることを目的としている。今年度は,日本よりもそれがラディカルに進んでいる北米諸国のうち,カナダの事例や議論に注目した。具体的には,まず調査報告書『カナダの学校におけるコマーシャリズム』(2006年)と,この調査を実施したカナダ教員連盟と独立系研究機関のカナダ・オルタナティブ政策センター(CCPA)の研究員に対する聞き取りを手がかりに,全国的な動向と個別事例の把握につとめた。 これらの作業から明らかになったのは,次の2点である。 第1に,カナダの学校が企業と「協力」関係を結ぶ直接の理由は,予算削減にあるということである。たとえば,学校は,企業がスポンサーとして出資する教育プログラムを招き入れることで,コストのかからない教育活動をおこなっている。他方,企業にとって毎日大勢の子どもが集まる学校での活動は,大きな宣伝効果を期待させるものである。このように学校と企業のあいだには,いわゆる「Win-Winの関係」が成立しているため,学校の内部からこれを問題視する声がなかなか挙がらない。 第2は,学校の公共的な性格が企業の活動によって脅かされている現実がある一方で,それ自体を批判的に学習するための教材が存在するということである。これは先述のCCPAが刊行した『マックワールドに挑戦する第2版』(2005年)に収録されている。この高校生以上を対象にした教材は,学校にけるコマーシャリズムへの批判的な認識を促すだけでなく,学校の公共性の確保に向けた提案を作ることにも重点を置いている。 今年度の研究から得られた以上の知見は,企業の教育活動が「社会貢献」として捉えられがちな日本の状況を今後分析していく際の有効な視点として活用されることになるだろう。
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