2008 Fiscal Year Annual Research Report
社会的認知のモジュール性と構成成分間の機能連関についての神経心理学的研究
Project/Area Number |
19830025
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
郷右近 歩 Mie University, 教育学部, 准教授 (00452219)
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Keywords | 社会的認知 / 神経心理学 / 脳損傷 / 心の理論 / 表情認知 |
Research Abstract |
社会的認知が複数の異なる要素的機能からなることを明らかにするために、脳損傷者を対象とした神経心理学的な手法を用いて、「心の理論」成分と「他者感情の評価処理」成分との分離を試みた。本研究では、筆者らによる従来の研究成果(獲得性脳損傷事例についての一連の縦断的研究)に立脚し、実験課題を使用した「他者感情の評価処理」機能の評価と、対象事例の生活場面における社会的行動の様相について観察調査を新たに実施した。得られた結果に基づき、従来の研究における「他者感情の評価処理に困難を有する者は心の理論の獲得が困難である」という主張に対して、他者感情の評価処理に顕著な困難を示す脳損傷事例であっても心の理論の再獲得が可能であることを実証したのが本研究の成果である。このことからは、他者感情の評価処理の機能が障害されていた場合でも、異なる機能や方略に基づき他者の心的状態の推測が可能となることが示唆される。本研究の意義は、他者感情の評価処理に困難を示す人々(脳損傷事例や自閉症等の発達障害児ら)に対して、心の理論獲得のための教育的支援を行いうる可能性を示した点にある。同様の症状を示す事例らに対する支援については、実生活場面の中で課題状況に直面する本人やその家族らと研究者が共に問題点の分析や解決方略の構築を進めてゆくという方法の実践に基づき、図版や画像における表情の読み取り訓練や、仮定状況における論理的推論による他者の心的状況の理解のための訓練とは異なる支援の方向性について提起した。
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