2008 Fiscal Year Annual Research Report
インクルーシブ社会実現に向けた聾者と聴者の協働による聴覚障害児特別支援教育の創造
Project/Area Number |
19830050
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
木村 素子 University of Miyazaki, 教育文化学部, 講師 (60452918)
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Keywords | 聴覚障害 / 特別支援教育 |
Research Abstract |
本研究は、19世紀アメリカ合衆国において、聴覚障害独自の言語的、社会的、文化的ニーズを最も理解する成人聾当事者が、どのように聴覚障害児教育に参与してきたのかを明らかにすることによって、平成19年度よりわが国において施行された特別支援教育における聾者と聴者の協働のあり方を展望することを目的として、着手された。今年度は、19世紀末に創設された通学制聾学校において、聾当事者によって創設された学校と、聴者によって創設されたあるいは運営された学校の教育理念、指導方法、指導内容、支持者等について比較検討を行った。その結果、シカゴ通学制聾学校において創設の担い手となった聾当事者は、都市部聾児への教育提供を第一の目的として学校を創設したが、幅広い支持者を獲得する理念、指導方法をもっていなかった。一方で、創設時の聾当事者にかわって校長となり運営を担った聴者教師は、当時の教育一般における指導法のトレンドを採用したり、全国規模の一般の教育団体において特殊教育部会を設置したり、聴者である保護者に対する支援を行ったり、幅広い支持者を集めて通学制聾学校を運営していくという点で巧みであったことがわかった。また、ミルウォーキー通学制聾学校において創設の担い手となった聴者篤志家らも、口話法の推進の理念達成のために、広い支持を集める様々な手段を講じた。今日、わが国においては、たとえば聾学校における指導法の選択や校名変更等において、聾当事者の意見を聞く仕組みづくりに聾者・聴者ともに困難を認識しているが、本研究における通学制聾学校史にみる知見は、現代のわが国において、聾当事者と社会のマジョリティである聴者がどのように両者の意見を共有して協働していくことが可能かについて示唆を与えているという点で現代的な研究の意義があるといえる。
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