Research Abstract |
発達障害児が障害物に接触する問題に対して人物描画,肢位模倣検査,姿勢・動作観察,机上検査などを用いて評価が行なわれてきたが,接触の原因については明らかになっていない.そこで本研究では,発達障害児が障害物に接触する原因を明らかにすることを目的として5つの実験を行った. 本研究の全ての実験における実験参加者は5〜6歳の健常児9名,注意欠陥/多動性障害あるいはアスベルガー症候群の診断を受けた発達障害児9名であった. 実験1では,くぐり動作課題を用いて接触回避の検証実験を行った結果,発達障害児は健常児と比較してくぐり動作時に障害物に接触する頻度が高いことが明らかとなった(島谷ら,2008). 実験2では,人物描画と肢位模倣検査を用いて,従来のリハビリテーション評価から得られる身体イメージの評価を行った結果,発達障害児と健常児の人物描画は同等であったが,肢位模倣検査には有意な差が認められた.しかし,肢位模倣における知覚と運動のどちらが問題となっているかを明らかにすることはできなかった(島谷ら,2008). 実験3では,発達障害児と健常児の6種目の粗大運動能力を比較した結果,全ての種目に有意な差は見られなかった.そのため,発達障害児の障害物への接触頻度の高さは,単に粗大運動能力の未熟さによるものではないことが明らかとなった(島谷ら,2008). 実験4では,発達障害児と健常児の重心動揺を比較した結果,開眼条件では発達障害児と健常児は同等であったが,閉眼条件では有意な差が認められた.そのため,発達障害児は視覚フィードバックを利用できない状況において障害物への接触が増えることが明らかとなった(島谷ら,2008). 実験5では,発達障害児と健常児のバーの高さの視覚弁別課題と身体を接触させずにくぐり抜けるという行為の可能性を見積もる能力を比較した結果,視覚弁別課題においては発達障害児と健常児は同等であった.しかし,身体イメージを利用して,くぐる行為を見積もる能力は発達障害児が劣っていることが明らかとなった. 上記の一連の結果から,発達障害児には知覚と運動を連結させる見積もり能力に問題があることが明らかとなった.この見積もり能力は,身体イメージに依存して正確性が決定されるため,発達障害児が障害物を回避するためには身体イメージを発達させるようなさまざまな運動経験が重要であると考えられる.
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