2008 Fiscal Year Annual Research Report
雇用主による医療給付改革とアメリカ型医療保障システムの再編に関する研究
Project/Area Number |
19830094
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
長谷川 千春 Doshisha University, 商学部, 講師 (40454483)
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Keywords | アメリカ / 医療保障システム / 医療保険 / 雇用主 / 医療給付改革 / 消費者主導型医療 |
Research Abstract |
本研究では、アメリカ医療保障システムの中核である雇用主提供医療保険に焦点を当て、主として1980年代以降の変化とその意義を検討した。雇用主である企業という視座から、アメリカ医療保障システムを体系的にみると以下の4点の特徴があり、本研究ではこの4点を関連付けながら、実証的に検討した。 第1に、市場経済における最も重要な契約の一つである雇用関係のなかで、付加給付という形の雇用主提供医療保険があり、それが現在に至るまで、アメリカ医療保障システムの中核をなすことである。第2に、雇用主である企業の経営との関連で、1980年代以降アメリカ経済がグローバル経済に組み込まれる中で、特に大企業が雇用主提供医療保険に対してもコスト節約圧力を強めている。1980年代以降、アメリカの大企業が医療給付コストを抑制・削減するためにとりえた方法は、(1)医療費負担のシフト(2)医療給付対象者の選別(非正規被用者の排除)(3)購買力による医療保険料の引き下げ(4)医療価格の引き下げの模索である。第3に、雇用主提供医療保険に依存した医療保障システムは、アメリカ経済の産業構造の変化、労働編成の再編を反映せざるを得ない。特に2000年代以降、製造業に代わって雇用の受け皿になっている小売業・サービス業では非正規雇用(パートタイム雇用含む)も多く、医療給付制度を持たない、あるいは不十分な医療給付しか行っておらず、これらの企業での医療給付戦略やその給付内容・条件などがアメリカ医療保障の方向性に与える影響は大きい。第4に、雇用から排除されたものに限らず、労働市場の下位集団におかれるものが無保険状態に陥っている、あるいは常に陥る危険にさらされている。この間のアメリカ医療保障システムに対するアメリカ企業の改革姿勢は、無保険者問題を単なる貧困・低所得層の問題ではなく、より幅広い層の労働者が直面しうる問題として深刻化させている。
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Research Products
(2 results)