Research Abstract |
話し合いの指導には,情意的側面に対する指導とともに,話し合いに参加している学習者個々の情報処理(心的作業)に対する指導が行われなければならない。しかし,話し合いは,常に動いているものであり,情報処理(心的作業)は学習者の内部で行われるため,それらに対する指導は難しい。本研究は,こうした話し合いに対する指導の困難性の軽減を図ることを目的とし,教室での話し合いの実際的指導に活用できる台本型の教材,「話し合い劇」を取り上げた。R・エムナーが指摘するように,ドラマで「演じた」という体験は,現実人生の同じような場面で,同じような態度を取りやすくする。「話し合い劇」であれば,実際的場面を用いて,具体的な話しことばで他者との関わり方を示すことができ,「関係」構築のための「スキル」を訓練することができると考えられるからである。 本研究では,まず,話題を共有しながら葛藤を表面化させ,共通理解を図る過程において必要な情報処理(心的作業)を分析した。それら求められる発言の裏面において為されるべき情報処理(心的作業)は,発言の理解,自分の考えや他の発言と比較,論理の整合性の確認,提示された複数の発言を関係づけ等2類7過程である。次にそれらを内包する発言例を考案して検討し,2類7過程の情報処理(心的作業)を内包した発言を散りばめた教材「話し合い劇」を作成した。最後に,教材「話し合い劇」を用いた後の話し合いの発言を分析しその成果を検証した。その結果,「話し合い劇」という具体的場面の中に習得すべき学習内容を込めることは,実際の話し合いの場面において,よく似た場面に対する類推を発生させることができることが確認された。学習者の反応からも,「話し合い劇」を教材として話し合いの指導に用いることの可能性を捉えることができた。 今後は,段階別や様々な話題を取り上げた教材「話し合い劇」を作成し,普及に努めたい。
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