2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19903019
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
佐藤 正樹 Waseda University, 政治経済学術院, 非常勤講師
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Keywords | フランソワ・ラブレー / 叙事詩 / 小説論 |
Research Abstract |
「フランソワ・ラブレーの初期作品の研究」と銘打った2007年度の奨励研究課題では、ラブレーが初めてフランス語の散文物語を執筆する際に、当時の散文物語の伝統をどのように取り込み、またどのような点においてそれを乗り越えようと試みたかを検証した。十六世紀前半の出版物を調査すると、この時期に読まれていた俗語散文物語作品の大部分は、中世に成立した叙事詩を散文に書き改めた読み物であることがわかる。要するに、十五世紀の後半に生まれた印刷術は、最初の数十年間、写本で読まれていた作品をそのまま刷り続けていたのであり、何百年も前に出来た「叙事的構造」が、当時の散文物語の骨格になっていたのである。本課題は、まずこの「叙事的構造」のあらましを知るべく、十六世紀を通じて何度も出版された叙事物語のひとつ、『ユオン・ド・ボルドー』の分析から開始された。この作品では、キリスト教と異教、王と家臣、善人と悪人、大人と子供といったいくつかの対立項がはっきりと描き分けられており、それらは決してあいまいに交じり合うことはない。閉じた世界の中で鋭く対立しあうこれらの要素がドラマを生み、物語を動かしている(主人公のユオンだけが、子供から大人へと、異なるカテゴリー間の移動を果たす)。ところがラブレーの作品の中では、これらの要素の対立はそれほどはっきりせず、物語に緊張感を与える役割を果たしていない。ラブレーの『パンタグリュエル』と『ガルガンチュア』にも、確かに戦闘の場面などはあるが、葛藤を持続させるだけの緊張感が根本的にかけているため、それらが物語の山場にはなりえない。ラブレーは、主人公の誕生、教育、武勲といった伝統的な叙事的モチーフは踏襲しているものの、それらを作品の中で有機的につなぎ合わせる「叙事的構造」は、自分の創作プログラムから排除しているのである。以上は本研究から得られた大まかな見通しであり、今後考察をさらに発展させて、論文、あるいは口頭発表の形で公表する予定である。尚、「叙事的構造」については、2007年5月に行った本課題に関連する研究発表「ラブレーの作品における叙事的構造ついて」で、簡単に問題点の整理を行った。また、本課題から得られた知見は、現在準備中の博士論文においても有益に活用されることになろう。
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