2019 Fiscal Year Annual Research Report
Structural mechanisms of crystallization and complex-liquid behaviors of phase change materials
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19F01021
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古川 亮 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (20508139)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
HU YUANCHAO 東京大学, 生産技術研究所, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2019-10-11 – 2021-03-31
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Keywords | ガラス転移 / ガラス形成能 / 結晶化 / 金属合金 |
Outline of Annual Research Achievements |
カルコゲナイドガラスや金属ガラスのガラス形成能は、応用上の重要性から多くの注目を集めてきたが、その制御因子は不明であった。特に、複数の原子種を混合することによりある組成でガラス形成能が劇的に向上することが経験的に知られていたが、その物理的機構は未解明であった。そこでこの謎に迫るべく、分子動力学シミュレーションを用いて、大きく異なるガラス形成能を持つ3つのモデル金属系について研究を行った。その結果、これらの系の結晶化の熱力学的駆動力には大きな差はないこと、一方で、液体と結晶の界面張力は大きく異なることを見出した。また、これらの液体のダイナミクスにも大きな差がないことから、これらの系のガラス形成能の違いは、液体・結晶間の界面張力によって支配されていることが明らかとなった。さらに、界面張力は、液体中に自発的に形成される構造的な秩序とその構造内の原子組成によって決定されていることを明らかにした。また、界面張力は、結晶の核形成を支配しているだけでなく、結晶成長にも大きな影響を与えることを明らかにした。これらの事実は、古典的な結晶化理論には重大な欠陥があり、これまで考えられてこなかった液体中に形成される局所的な構造秩序の効果をあらわに考慮する必要があることを強く示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、相変化メモリーへの応用という観点から近年大きな注目を集めているカルコゲナイドガラスや、構造材料・機能材料としての応用が期待されているバルク金属ガラスなどの物質のガラス形成能が、どのような物理因子で支配されているかを明らかにすることを目的として計画された。上記の研究成果は、これらの系のガラス形成能の違いが、液体・結晶間の界面張力によって主に支配されていることを強く示唆している。さらに、界面張力は、液体中に自発的に形成される構造的な秩序とその構造内の原子組成によって決定されていることを見出した。これらの構造的な秩序には、結晶に似た構造を持つ結晶前駆体と結晶の対称性と相いれない正二十面体構造があることが明らかとなった。液体中に自発的に形成される局所的に安定な構造が、結晶の持つ方位対称性と類似しており、さらに、原子組成にも大きな差がない場合、この構造が結晶核形成において結晶化を助ける前駆体として働き、その結果、このような構造が液体中に形成されやすいと結晶核形成が容易になる。また界面張力は、結晶の核形成を支配しているだけでなく、結晶成長にも大きな影響を与えることを示した。古典的な結晶成長理論においては、結晶成長速度は界面張力には依存しないと考えられており、この発見は古典モデルに重大な欠陥があり、液体中に形成される局所的な秩序の結晶成長への影響をあらわに考慮する必要があることを強く示唆している。このように、本年度の研究により独創的な成果が得られており、研究は順調に進展したと考えている。これらの成果は、Sci.Adv.6,eabd2928 (2020)に出版された。
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Strategy for Future Research Activity |
結晶に対するフラストレーションの度合いによりガラス形成能を系統的に制御可能な系において研究を行っている過程で、この系に並進対称性が破れているものの回転対称性は破れていなプラスチック結晶状態が形成されることを発見した。この状態において温度を変化させると液体のガラス転移と同様に、温度低下とともに粒子の回転ダイナミクスが劇的に減速するガラス転移挙動を示すことを見出した。さらにその挙動が、結晶へのフラストレーションの強さを制御することで、フラジャイルな挙動からストロングな挙動まで系統的に変化することを見出した。プラスチック結晶におけるガラス的なダイナミクスについて実験的研究はあるものの、数値的な研究は極めて稀であり、さらにガラス転移点近傍での粒子運動の協同性を制御可能なモデルはこれまでほとんどなかった。そこで、プラスチック結晶における遅いダイナミクスの構造的な起源を理解することで、液体の示すガラス的な遅いダイナミクスの起源に迫る予定である。また、同じ系の液体から形成されるガラス状態における振動状態密度にも、フラストレーションの度合いを反映した興味深い系統的な挙動が見られ、その起源を明らかにすることで、ガラス状態の低温熱物性の理解につなげられればと考えている。
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