2019 Fiscal Year Annual Research Report
Controlling excited-state proton transfer dynamics using nanocavity engineering
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19F19034
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
恩田 健 九州大学, 理学研究院, 教授 (60272712)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
KONINTI RAJ KUMAR 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2019-10-11 – 2022-03-31
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Keywords | 光化学 / 時間分解発光分光 / ゼオライト / マイクロポーラスクリスタル / 時間分解赤外 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子の励起状態特性の操作は基礎、応用両面から重要である。同一分子でも周囲の環境によって励起状態の性質が変調されることが知られているが、分子レベルの理解は限られている。これまで励起状態特性は主として時間分解発光(TRPL)分光法を用いて調べられてきたが、分子の構造に関する情報は必ずしも得られない。そこで本研究ではTRPLに加え、励起状態の分子構造に敏感な測定方法である時間分解赤外分光法(TRIR)を用いて分子と環境との相互作用の役割を明らかにすることを目的とした。本年度は、ナノキャビティを作製するための試薬、合成環境を整備し、またナノ狭小空間の制御方法の確立を行った。さらにこのような試料における過渡的発光スペクトルを高時間分解能で効率良く測定する装置の立ち上げを行った。これらを用い、基本的な分子であるベンゾフェノンをモデル分子として、異なるサイズ、形状、環境を持つナノキャビティ中における時間分解発光スペクトル測定を行った。その結果、より狭いナノキャビティ中において、一般的な蛍光より遅い発光、すなわち熱活性化遅延蛍光が顕著に観測されることを見いだした。ベンゾフェノンの様に単純な分子において、このような現象はこれまで知られておらず、新しい分子の発光特性制御法としての応用が期待される。そこで今後は、TR-IRおよび量子化学計算によるそのメカニズムの解明、さらにどのような分子においてこのような現象が起こるかを明らかにする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
プロジェクトが10月から始まったため、年度内は主に測定装置の整備および、すでに溶液中での発光特性のよく調べられている基本的な分子を使ったナノキャビティへの閉じ込め方法の確立、ナノキャビティ中の分子の吸収、発光など基本的な光物理特性の測定を行った。さらにこれらの基礎的な手法、データをもとに、実際にゼオライト、MCM-41、MCM-48など異なるナノキャビティへ分子を吸着させたところ、ベンゾフェノン分子において顕著な発光特性の違いが見いだされた。このような単純な分子において、これほど顕著な発光特性の変化は予想されておらず、この点からも本年度の成果は予想以上の進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果を踏まえ今後は、今回得られたナノキャビティ中分子の発光特性の顕著な変化の温度依存性、さらには時間分解赤外分光の測定および量子化学計算による構造決定を行う。計算においては、小分子と環境の相互作用にフォーカスした計算は新しい観点であるため計算化学の専門家とも議論を進める予定である。その上で、狭小空間に置かれた発光の長寿命化について、分子構造ダイナミクスの観点から明らかにする。さらにこれらの知見を元に、他の発光性分子においても同様の測定、解析を行い、どのような分子において、このような現象が起こるのかを明らかにする。 さらに狭小空間が励起状態プロトン移動(ESPT)に与える影響についても調べる。対象分子群とてしては2,6‐ジアザインドール(2,6-Ind)を用いる。これらは蛋白質の結合ポケット内における水の溶媒和を調べるために用いられる重要な分子群である。水中では2,6-Indは協奏的に励起状態三重プロトン移動反応を起こすと考えられている。TRIRは分子構造だけでなく溶媒和環境にも敏感なプローブであるため、ESPTプロセス中と水和ダイナミクスの関連を実時間で検出する。TRPLも併用して、励起状態構造と発光ダイナミクスを比較する。
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