2019 Fiscal Year Annual Research Report
Investigating the structural conversion mechanism of DNA strands by new single molecule spectroscopy
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19F19340
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
田原 太平 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (60217164)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
HEO WOOSEOK 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2019-11-08 – 2022-03-31
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Keywords | 一分子FRET / DNAダイナミクス / 二次元蛍光寿命相関分光法 / マイクロ流路 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、走査型二次元蛍光寿命相関分光法(走査型2D-FLCS)の開発を行った。具体的には、既存の2D-FLCSの測定可能時間範囲の問題を解決するため、溶液中を自由拡散する分子を測定する方法に代えて、分子をカバーガラス基板上に固定して計測する方法を採用した。ただし同一の分子に数秒以上の長時間励起光を照射し続けると蛍光色素の褪色が起こるため、1秒以下で測定分子が入れ替わるように、カバーガラスを設置したピエゾステージを連続的に走査しながら計測することとした。この走査型2D-FLCSにより、約1ミリ秒であった測定可能時間範囲の上限が数百ミリ秒まで飛躍的に拡大することを確認した。次にこの走査型2D-FLCSを応用して、DNAホリデイジャンクション(HJ)の構造異性化ダイナミクスの計測を行った。HJはエネルギー的に等価な二つの構造異性体を持ち、室温溶液中でこれらが1:1の存在比で平衡状態になっており、マイクロ秒からミリ秒の時間スケールで互いに自発的に異性化することが知られている。本研究ではまず測定対象分子の構造・ダイナミクスに対する基板との相互作用の影響を最小限に抑えるため、基板固定法とバッファー条件の最適化を行った。この結果、既報のHJのダイナミクスの時定数を再現する条件を得ることができた。この条件で走査型2D-FLCSを用いた計測を行った結果、既報のダイナミクスに加え、数百ミリ秒以降まで完全に平衡化しない成分が新たに見つかった。また、二つの構造異性体のFRET効率の分布を調べたところ、各異性体内で構造の揺らぎが存在し、これがマグネシウムイオン濃度に依存して変化することを示唆する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、理研で開発された2D-FLCS法をベースにしている。当初の計画では、Heo博士が超高速分光分野の出身であり一分子分光実験の経験がなかったため、本年度はまず既存の2D-FLCSを用いて自由拡散する分子の観測を行い、装置とソフトウェアの使用法を理解すると同時に、データの解析方法を習得するという準備段階の作業に主に専念する予定であった。しかしHeo博士は2D-FLCSの習得を早い時期に完了したため、並行して進める予定であった走査型2D-FLCSの開発と応用に集中することができ、これを大きく前進させて予定よりも早期に成果が得られる見通しとなった。特に試料条件の最適化により再現性の良い走査型2D-FLCSのデータを得る方法が確立されたことにより、HJの異性化ダイナミクスについて既報の時定数をよく再現する結果が得られ、さらにダイナミクスの不均一性や階層性についても、2D-FLCSの特長である高い成分分解能を利用して、定量的な議論が可能な信頼性の高い結果が出始めている。 さらに当初次年度から研究を開始する計画であった、ラピッドミキシング法と2D-FLCSを組み合わせる実験についても、検討を始めている。市販のPDMSポリマー製マイクロ流路デバイスを用いたセルを試作し、空圧による流量制御の状況と耐圧性を調べる試験を進めている。この結果をもとに、次年度に導入する予定の高精度空圧送液ポンプの選定を行った。 以上のことから、本年度は当初の計画以上の進展が見られていると結論できる。
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Strategy for Future Research Activity |
走査型2D-FLCSについては、本年度得られたHJのダイナミクスの不均一性や階層性を示すデータの再現性を確認する。HJのダイナミクスの不均一性の存在は以前に一分子FRET法を用いて他のグループから報告されているが(Hyeon et al., Nat. Chem. 2012)、今回2D-FLCSを用いることで、一分子FRETではアプローチできなかったマイクロ秒の時間領域の計測を行い、幅広い時間領域をまたいだ計測結果に基づき不均一性の起源を考察する。ここまでの成果をまとめた論文を執筆し、国際誌に発表する予定である。さらにマグネシウムイオン濃度依存性の検討や塩基配列が異なるHJの測定も行い、微視的な相互作用の影響を調べる。これらの結果を総合して、HJの異性化反応の分子機構を明らかにする。 ラピッドミキシング法を用いる研究については、数ミリ秒以下の時間分解能を達成するため、流体力学シミュレーションを援用して高速混合を実現するマイクロ流路を設計し、PDMSポリマーを材質としたデバイスを製作する。これを用いて、生体高分子がゆっくりした時間スケールで変化する途中の非平衡状態で示す構造を2D-FLCSを用いて観測する。具体的には、生体高分子試料とその構造変化を誘起する試薬の溶液を圧力制御された空気によりマイクロ流路中に一定の流量比で導入し、混合後の各遅延時間で2D-FLCS計測を行って構造分布の情報を得る。試料としては、DNAのi-モチーフを取り上げる。pHジャンプによりi-モチーフ構造形成を誘起し、その後の構造変化を2D-FLCSで計測することで、複数の構造形成経路の存在を検討する。また、構造変化中間体がマイクロ秒オーダーの速い構造揺らぎをもつかどうかを調べる。これらの結果から、i-モチーフの折りたたみ機構を提案する。
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Research Products
(2 results)