2020 Fiscal Year Annual Research Report
Long-Range Periodic Assembly of Stable pi-Radical Ions and Its Charge and Spin Transporting Property
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19F19374
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
関 修平 京都大学, 工学研究科, 教授 (30273709)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
KUMAR SHARVAN 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2019-11-08 – 2022-03-31
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Keywords | 電子共役 / ラジカルイオン / 周期構造 / 電荷輸送 / スピン輸送 / トルキセノントリイミド / HAT / トリフェニレン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,共役電子系低分子を用いた長距離秩序を有する有機ラジカルイオン種の形成を目的としており,特に大気安定性の高い電子不足系開核分子の開発とその物性評価に主眼をおいている.有機半導体材料としては,現在のところ大気安定で測定の再現性が得られやすく,高いキャリア移動度が報告されているp型半導体材料に着目して研究が推進されている.n型半導体はペリレンジイミドやフラーレン系,一部の高分子などで電子特性が研究され,電子移動度1 cm2V-1s-1を越える材料系の報告もあるが,p型半導体に比べて多様性が少なく研究が進んでいない.本研究では,特にn型有機半導体材料としての利用や大気安定なラジカルアニオンおよびその前駆体の開発を志向し,令和2年度はトルキセノントリイミド誘導体・ピレン誘導体・パイ共役拡張ピレン誘導体をはじめとした新規材料群の設計・合成を試みた.一部の誘導体に関しては合成・単離精製が完了し,その光・電子特性についても測定に成功している.そのなかでも,トルキセノントリイミド誘導体の4種類の材料系に関しては,サイクリックボルタンメトリーからは分子設計通りLUMO準位の低下が確認されており,可逆的な還元が可能であった.同時に,この誘導体系では時間分解マイクロ波光励起電気伝導度測定法により得られた光電気伝導度および電荷キャリア再結合速度に明確な違いが観測された.単結晶構造の同定も終えており,その物性との相関について量子化学計算なども援用しながら議論を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トルキセノントリイミド誘導体として,本年度はアルキル基およびフェニル基などの置換基を有する4種類の誘導体の合成に成功し,NMR・質量分析によりその単離を確認した.サイクリックボルタンメトリーにより,5段階の可逆的な電子移動過程が確認され,1段階目の還元過程はLUMO準位(-4.20 eV)と良い一致を示した.この準位はもとのトルキセノンの準位(-3.55 eV)よりも大幅に低く,大気・および水に対して高い安定性を有していると考えられる.これらの誘導体は化学ドープを用いた還元処理により,大気不安定ながらもラジカルアニオンを形成することが確認できた.本材料群の光電気伝導度をFP-TRMC法により非接触で計測したところ,アルキル基誘導体2種類ではほとんど信号を示さないのに対し,フェニル基誘導体2種類では,(2-6) x 10-5 cm2V-1s-1程度の明確な光電気伝導度信号を示した.単結晶構造を確認したところ,アルキル基誘導体では,アルキル鎖が噛み合ったダイマー構造を形成した上,スリップしたパイスタック構造をとっており完全な一次元伝導パスを有していたのに対し,フェニル基誘導体は一次元パイスタック構造を主としながらフェニル基を介して隣のカラムと相互作用している結晶構造をとっていた.パイ共役拡張ピレン誘導体においては合成が完了していることをNMRと質量分析により確認しており,単結晶構造の取得にも成功している.しかしながら,現状安定なラジカルアニオンを形成するには至っていない.
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Strategy for Future Research Activity |
トルキセノントリイミド誘導体に関しては,不安定ながらもラジカルアニオンの形成に成功したため,大気中で安定なラジカルアニオンの形成を志向して電子求引性の置換基を導入した誘導体を合成しており,これらの単離精製および光・電子特性の測定を行う予定である.ピレン誘導体においては,電子吸引基を有する材料の合成を行ったが分離精製が現状困難であったため,今後昇華精製やPVTなどの方法を用いて分離精製を行いたい.同時に,分離精製が成功しているパイ共役拡張ピレン誘導体に関しては,適切なドーパントを探索によりラジカルアニオンを形成し,その安定性の評価および磁気特性の評価を行いたいと考えている.さらに,マロノニトリルを有する材料系は動的共有結合を形成することが可能であると報告例があり,現在パイ拡張ピレン誘導体をはじめとするいくつかの材料系に対して複数のマロノニトリル基の導入を試みており,単離精製の後動的共有結合性を含めてその磁気特性を評価する予定である.
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